幅広い選曲とハートフルなピアノ&ボーカル
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10周年記念ツアーを終えて一時音楽活動を休止していた綾戸智恵さんの2年ぶりの新作。曲のジャンルを問わないのも綾戸さんの大きな魅力のひとつ。本作もそんな彼女らしく実にバラエティに富んだ内容となっています。ひと頃の圧倒的な声の力を前面に押し出すのではなく穏やかさに溢れ歌詞に寄り添うような歌声が聴く者の心をつよく捉える。しっとりとした味わいの「When The World Turns Blue」や、シャンソンのエディット・ピアフ最大のヒット作「La Vie En Rose」、ギターとの絡みが絶妙な「Nature Boy」など名唱揃い。個人的に最も気に入っているのが、メグ・ライアン、ラッセル・クロウ主演映画「プルーフ・オブ・ライフ」で流れた「I'll Be Your Lover, Too」。本アルバムには収録されていませんが、コンサートやライヴで「You Are So Beautiful」、「The Main Theme Of Proof Of The Man (人間の証明のテーマ)」などの弾き語りを聴いて心を大きく動かされた方はここでも号泣必至!歌に無限の深さがあることを綾戸さんは教えてくれます。一方、ハモンドオルガンを前面に打ち出した「Precious Lord」も出色の出来。全編を通してアレンジにも温か味が感じられ綾戸さんのハートフルなピアノ&ボーカルが満喫できる1枚です。
素晴らしい その一言です
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綾戸智恵の歌唱から大御所の貫録と余裕を感じたアルバムです。母親の介護に専念した1年のブランクから復帰し、満を持して発売したアルバムは人生の辛酸を克服した者のもつ強さと優しさが感じられるものでした。離婚、2度のがんの手術、声の出なくなった時期、イサの子育てと母親の介護と彼女に次々と襲いかかる試練を明るく笑い飛ばしながら乗り越え、そのキャリアが歌の深みを形作っていました。どことなく肩の力が抜けているように感じるのは、次なるステージに降り立った者の余裕が感じられるのかもしれません。
「And I Love You So」の見事なバラードは絶品ですね。弾き語りのピアノとの絶妙のバランスで繰り広げられるラヴ・ソングは人生の応援歌のような雰囲気が漂っていました。
2009年9月に放送された『徹子の部屋』でもこの「And I Love You So」をアヤドの弾き語りで聴きましたが、以前よりずっと心の奥深くに届くようなジャズ・シンガーになって帰ってきました。歌の巧さと一言で片付けられるものではなく、言葉や歌唱そしてピアノから人生は美しく捨てたものではない、というメッセージが伝わってきます。
エディット・ピアフの歌唱が耳に残る「La Vie En Rose(バラ色の人生)」も明るくオシャレに表現しています。シャンソンをずっと歌ってきたかのような貫録が感じられ、圧倒されました。
冒頭の「When The World Turns Blue(世界がブルーに染まるとき)」も切ない雰囲気が伝わってきます。♪私たちが死んでも この歌は残るでしょう♪という2番の歌詞の箇所から、深い心情が伝わってきます。アヤドがブランクの後にこの歌を最初に選んだ意味は重いと感じています。雄弁なピアノと彼女の深くて暗い声。やるせなさと切なさ、ブルース・シンガーでもあるアヤドでなくては歌えない絶唱でした。