対岸から見た東アジアの冷戦史
★★★★★
一時代を規定した「冷戦」とは何だったのか。また、他地域ではほぼ過去のものとなった冷戦がいまだに残る朝鮮半島情勢とは何なのか。
ソ連・ロシア研究の泰斗たる著者は、近年公開されたソ連/ロシア側の資料を駆使し、日本海の向こう側から見た東アジアの冷戦史を描き出す。そうした資料に一般人が触れることはこれまでなかったし、これからもそうはないだろう。手に取りやすい新書の形でこうした内容が公刊されていることの意義は大である。
同時代人が知ることのなかった事実を知る、という知的興奮を与えてくれる一冊である。
ヨーロッパとは違った様相を呈するアジアの冷戦
★★★★☆
アジアでの冷戦は、ヨーロッパでのそれとはかなり違った様相を呈していると言うことが、本書を読むとよくわかる。しかし、著者の守備範囲を超えるから致し方ないこととも言えるが、そうなってしまったことの理由が、例えば文化人類学的考察なども加えて説明されていない点は不満である。アジア人がアジアを説明するレベルは、ヨーロッパ人がヨーロッパを、アジア人がヨーロッパを説明するレベルに到底達していないとも強く感じた次第である。
なぜアジアの共産主義国家は今なお健在なのか
★★★★★
総本山であるソ連や東欧において、共産主義国家が呆気なく崩壊した今、世界に残された共産主義国家は5カ国だけになりました。世界中が民主主義を求める時代に、もはや狂気の沙汰としか言えませんが、残された5カ国のうち4カ国が東アジアに存在するのも、厳然たる事実。なぜアジアの共産主義国家は今なお健在なのか、体制転換したモンゴルとの違いは何か。今後のアジア情勢を考える上で、本書は多くの示唆に富んでいます。
冷戦というと、ヨーロッパの東西対立が主に取沙汰されますが、アジア内の共産主義国家同士が対立を繰り返し、度々武力衝突したように、アジアでの冷戦は多極的です。ヨーロッパでは大戦前から主権国家が発達し、大戦後は度々民衆蜂起が生じたため、各国の主権は大幅に制限されました。一方でアジア諸国は、植民地後直ちに共産主義の洗礼を受け、支配路線も独自色が強かったと言えます。特に問題なのが中国の肥大化した独自性です。国民党から共産党への中ソ同盟のシフト、核政策をめぐる中ソ対立を通じて、アジアにおける共産主義勢力の主導的地位が、ソ連から中国にシフトした様が見て取れます。中越戦争やベトナム戦争をはじめ、アジア諸国間の冷戦はいずれも中国が関わったと見て間違いないでしょうが、現在の中国の肥大な特性は、冷戦時代から続いてきたと言えます。
とは言えアジアでの独自路線は、北朝鮮やベトナムにも見られます。ソ連のコピー国家だった東欧諸国やモンゴルが崩壊したのに対し、主権国家として独自性が大幅に認められていた国々で、今なお民主化勢力が弾圧され、核拡散や飢餓が続いているのは皮肉な話です。
ソ連崩壊以後15年が経過しても、アジア内での共産主義国家は衰えを見せず、それゆえに様々な問題を引き起こしています。しかも各国の問題は一括りに対処できない。その複雑さを理解し、各国を民主化する上で、本書からは様々な教訓を得られると思います。
共産主義国の覇権争い
★★★☆☆
表題は「アジア冷戦史」であるが、極東のソ連と中国の対立が中心となっている。それは著者が主にソ連・ロシアを専門としていることやソ連崩壊後に公開された極秘資料を中心に構成しているから致し方のない部分もある。本来の意味でアジアの冷戦を描くなら必要不可欠なベトナム戦争や極東における日本の存在、アフガン戦争などに殆ど触れられていない。
だが、ソ連と中国のアジアにおけるヘゲモニーの争奪戦についての書と考えて読むとなかなか得るところも多い。当初はソ連にとってアジアはさほど重要な地域でなかったこと、共産主義の主導権争いの中でアジアが中国との主戦場になったこと。そして北朝鮮はその流れに翻弄される国家であったこと。東ヨーロッパとは違った意味で極東アジアもまた共産主義の最前線であったことがわかる。
タイトルの半分しか書かれていないのでは?
★★★☆☆
著者自身が本文で、冷戦とは「イデオロギー、地政学、そして核をめぐる東西間の紛争」と定義しているにもかかわらず、書かれているのは、ソ・中・朝・越など東側陣営相互間の政策・対立ばかりで、西側諸国の動向についてはまったくといっていいほど触れられていない。
ソ連崩壊後に公開された資料を多用して新事実を明らかにしている点も多く、内容的には悪くないが、冷戦期の概要を把握したい読者にとっては片手落ちの感は否めない。
タイトルを『戦後アジア社会主義陣営対立史』とでもするべきではなかっただろうか。