さて、本書が明らかにする、こうした人々の心理構造は、評者の理解では、「実力の伴わない自己能力の過大評価」というべきものであろう。これは、「脚光を浴びる存在」になることを希望しているものの、そうした存在になるための、膨大な努力を行おうとはせず、常に入口で(当然ながら)挫折し、次なる目標を設定し、また挫折を繰り返すという、永遠の「自分探しのスパイラル」に陥っているというものである。
この上で、著者は、彼らの希望する「夢」の実現へ向けて、具体的な行動を推奨することを提言している。
確かに、心理学的にはこうした対処方針しかないと思われると同時に、こうした分析以上の原因を追究することは、当然著者の力量の範囲外であるのはもちろんであるが、やはり、「働こうとしない人々」対策には、社会経済的な側面を考察せざるを得ないと思われる。
すなわち、「働かなくても生活できる」ことが可能であるということ、いわば、自らの意思で無職状態を選択しても、納税が免除されるだけでなく、各種社会保障がほとんど無料に近い形で享受でき、また、親と同居して、食費・住居費の費用を一切負担する必要がない、「福祉依存」「親依存」の問題が指摘されなくてはならないのではないか。
仮に、最低限の労働をしなければ、最低限の生活が保障されないという制度設計を行えば、そもそも具体的な人生設計を構築することができず、「妄想の全能感」から脱却できない、こうした「働こうとしない人たち」の消滅に、相当大きな効果を生み出すのではないか。要するに、評者としては、「自分探しのための労働」の余裕を一切与えず、「生存としての労働」の状態を生み出すことが、唯一の解決策ではないかと思われる。