説得力のあるレーリンク判事の回想
★★★★☆
私は東條首相の就任演説を聞いた.そうしてもう駄目だ,と子供心に思った.だからこのような連中が裁かれ,絞首刑にされるのは中学生としての私には当然の理であった.しかし,これまで裁かれた側の立場以外の人が述べた意見を聞く機会がなかった.交戦国の一つであるオランダを代表して東京に2年間滞在し,多数意見に加わらなかったレーリンク判事は,この存立の根拠からして疑問のある裁判の全記録を 1977 年に公刊し,そこに含まれる国際法的意義を世界の共有財産にまで引き上げた.この本はイタリアの現役の国際法学者カセーゼ教授が聞き役に回って同じ77年に作成された聞き書きの集成である.ここで述べられた元判事の意見は,私にも深く納得できるものである.恐らく 1941 - 1948 (東條内閣の成立から処刑まで) の時代を東京で体験しなかった多くの人々は別の意見をもつだろうが,私はこの本を強く推薦する.減点は翻訳に対するもので,想定される本文に対してのものではない.