知られざる世界
★★★☆☆
著者はラテン・ロマンス諸語比較文献学の研究者。演劇、ローマ喜劇の専門家ではないという。ただ、昔からローマ喜劇に関心があり、さきごろ京都大学学術出版会から出た『ローマ喜劇集』の翻訳も担当したことから、本書を手掛けることになったのだとか。
ローマ喜劇はわずか26篇しか現在に伝わっていない。しかも、プラウテゥス、テレンティウスという二人の作品しか残っていないのである。それらを概観し、主要なものを取り上げて内容を説明・分析したのが本書となる。ほとんど日本では知られていない分野であり、非常に新鮮で面白かった。
当時の上演方法、観客、演劇の持った意味なども俯瞰されており、なおかつ現代の演劇との比較も盛り込まれているため、いろいろ刺激的に感じた。
しかし、専門家でないがゆえの危うさがあちこちに見え隠れしており、また大胆な仮説を持ち出しがちなため、ちょっと読んでいて不安を感じた。
書きぶりにも難があり、何度も読まないときちんと内容が把握できないかも知れない。
全ての喜劇はローマに通ず
★★★★★
ギリシア悲劇となると比較的日本では知られているし、大学等で学ばれることもまあ多い。しかしローマ喜劇となると、なかなかその機会は多くはないのではないか。本書は「プラウトゥス」と「テレンティウス」という二人の作品を詳細に紹介し、現代にも通じるコメディ的な要素、そして演劇理論について考察し、明らかにしていく。さらには現代日本の演劇との並行性についても筆は及ぶ。
紀元前という古い時代のものであるが、地中海のさわやかな気候のもと、明朗快活な彼らが花開かせた人間性が見せる、、現代のわれわれにも通じるユーモア感覚、普遍的な演劇技法やメディア、そして後の西洋文化への影響など、これまであまり知らなかったものに光を投げかける啓蒙的な新書である。
いってみれば、全ての古代喜劇がローマに流れ込み、それ以降の喜劇はローマから流れ出たということなのだろう。