2番打者としてはなかなか
★★★★★
応用科学萌芽期、ノスタルジックながらかなりいかがわしいムード横溢するなか一見全体の組み立てはシンプル、登場人物の絡み合い方もよくある小説の感じ。しかし、黒子役として登場したかのような気球乗りたちは、天使のような(死者のような)存在に変貌していき、世界や人物の輪郭線を作る光のさまざまな幻影を生み出すエピソードが随所に挿入され、「普通の物語」を変容させていく。そして、このささやかな仕掛けが、次第に威力を発揮し明暗反転したかのような光景の大団円へと導き、主役三人兄弟こそが狂言回しであったのかと悟らせることになる。文中に何度か登場する「微分可能性」の吟味、つまり変化、変容こそこの物語の真骨頂だと思われ、その賞味のためにはある程度スピードをつけて一気呵成に読んでしまうことが必要だろう。