昭和の十年代の女性の歌手の歌声は、現在の常識から云うとか細くて情緒のある声であり、そしてそのような声は当時の歌手に共通していますが、その中でもミス・コロンビアの声は澄んだ美しさがあって心に訴えます。なぜ、当時の女性がこのような声を出していたのかと考えていますと、この声は亡き母が私が子供の頃に歌っていた声に似ていることに気づきました。そしてやがて、その声は私が母の背で子守歌として繰り返し聴いた声であることに気づきました。今の歌手の歌い方では子供は目を覚ましてしまうでしょう。このような声で子守歌が歌われた時代の女性の心を詳しく知りたくて、私はこのCDを買い求め、買ってよかったと思っています。たとえば「並木の雨」に子守歌のような節回しを感じるのは私だけでしょうか。人の心の奥底にある「かなしさ」が分からなければ、生きていくとはどういうことかがわからないと云われています。今は歌われなくなった子守歌を、昭和の戦前に、かなしく、そして優しく歌った日本の女性の心に触れることができるのは、このCDの大きな意義だと思います。