21世紀の日本古代史研究はどこへ向かうのか
★★★★☆
近年歴史学研究会と日本史研究会がどのように歴史学の進化と深化を編み出しているのだろうか、という興味を持って読み進めました。
刊行にあたって、で書かれていますが、まさしく「『日本史』学が日本という自明の対象をもつかのように考えられていた時代は去り、日本自体の多元的把握や国境の相対化を通じて、国民国家形成の特質を批判的に解明する必要が意識されるようになった。」と書かれています。
今日的な課題が歴史観にも影響を当然与えており、研究者はその命題に対して、個別細分化が進んでいる研究を俯瞰的な視野で位置づけし、研究の目的やあり方の再構築が問われているのです。
最初に「旧石器捏造事件」についても触れています。研究者としての資質に欠けていたとはいえ、学問の世界における功名心の怖さを改めて確認する契機になる事件でした。
「ヤマト王権の列島支配」では、7世紀以前の時代を対象とする歴史学の研究が必ずしも活発でない、としています。当然文献史料には限りがあり、記紀への史料批判も加える必要があるので、新しい地平を切り開く難しさが伝わってきました。考古学的な成果と文字史料のリンクもなかなか進まない実情が冒頭に語られていました。なお研究内容へ論評できるだけの見識はありませんので省略します。
これまで先達の学者が取り上げてきたテーマを避けることは難しく、新しい観点からのアプローチも大変でしょう。過去の『講座』との違いを見ようとしましたが、ダイナミックな視点の転換を図ることは難しそうですね。