ミーハー的だがマニアック
★★★★☆
歌舞伎ものの文章はおおむね、堅苦しく重々しい、というのが通り相場ですが、この田口さんの本は、徹底してファン層の思いに沿う事柄を記述しています。それも現代の観客が役者に抱く興味、家庭環境、その日常など、これまで歌舞伎研究等の諸本には登場しなかった(あるいは無視されてきた)、役者の実際と観客に焦点を絞っているわけです。
たとえば、歌舞伎役者が俳句をたしなんでいることは承知していましたが、この本で初めてまとまった数で役者の発句を読め、その実力のほどを知った次第です。
それが坂田藤十郎と氏から近代に至るまで、微細に記述されているのですから、手元において楽しむには格好の本でしょう。