腫瘍内科医の経験知が集約
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がん診療の第一線で活躍する著者の一貫した姿勢は、効率的な情報提供の尊重であろう。国立がんセンターでの経験は単に過去の通過点ではなく、現在の著者の医療者としての行動を支える基盤となっている。第1章「がん難民」はこうして生まれる」は問題提起の章である。第2章「早期発見・早期手術だけではがん医療は不十分」、第3章「手術の成功イコールがんの治癒ではない」では、いきなり外科手術偏重のがん医療の現状を鋭くえぐる。第4章「転移・再発後のがん治療は間違いが多い」では、がん医療を内科医の生物学的視点で捉える筆者ならではの深い洞察と幅広い経験に基づいている。そして、圧巻は著者の正に専門である腫瘍内科学の真髄、第5章「副作用は避けられる」、第6章「抗がん剤は世代交代が起きている」と続く。第7章「がん医療をめぐる数字のトリック」、そして、第8章「がん予防法・健康食品に根拠はない」では、だれもが当たり前と考えているがん医療の問題点を指摘、これぞ、癌常識の嘘、である。そして、終 章「医師と患者のよりよいつきあい方」には、すべての医学生に読んでもらいたい医師-患者関係を円滑に進めるためのノウハウが満載されている。「おわりに」にあるように、この本は、編集者と著者のエネルギーが2ヶ月という短期間に集約されて出版された、まさしく時代の要請に対する明確な答えといえるだろう。