壊す者と壊される者が心を寄り添わせてゆくせつなさを
★★★★★
奈良さんの挿絵ということで「蛇淫の血」と「蜘蛛の褥」を買って来るよう妹から頼まれていたのですが、書店でどうしてもこちらの「赫蜥蜴の閨」の方が気になり、まずはと手にしたのがきっかけでした。今思えば強く”呼ばれて”いたのだと思います。
激しい暴力や陵辱の描写の連続に目を覆われがちですが、その向こうで歪ながら淡々と繊細に重なり合ってゆく臣と光己の思いと在り様に胸が締め付けられるようでした。過去に囚われ、極道である以上に破綻している臣から光己が受け続ける蹂躙はあまりにも一方的で理不尽です。けれどそれを軸に、何故光己でなければならなかったのか、何故臣でなければならなかったのか、それぞれに壮絶な過去を持ち生きて来た二人が、破滅への衝動から、苛む鬱屈から解き放たれるために、何故互いでなければならなかったのかが、物語が進むにつれ破綻なく描き出されて行きます。二人の交わす台詞や物語の展開にも幾重に伏線が張られ、一つ一つが丁寧に収束して行くのにも唸らされました。
あまりにも暴力的で歪に始まった臣と光己の恋には、物語がクライマックスを迎えても直接的な過剰な愛情表現はありません。けれど二人が互いのためにする選択、それこそが愛なのではないでしょうか。雨の駐車場での熾津と岐柳の凄絶な対決場面、まずは光己が、ここで臣が果てたいと望むなら最期くらいは誰かが寄り添ってやるのもいいかと、ふいに胸に落ちるように選びます。そしてそんな光己を前に、臣は何より望んでいたはずの破滅の舞台である血塗れた抗争から手を引くことを受け入れるのです。この後に続く天井のない場所へ連れて行くようねだる光己と臣のやり取りは、甘く、せつなかったですね。「お前の『コウちゃん』になってやる。好きなように俺を使え」確かに脆さを持ちながらもけして折れることがない光己が臣に告げた選択。闇と糸のように降り注ぐ雨の中で、蠢く臣の頭を胸に抱きながら、光己はきっと淡く微笑んでいたのでしょう。
姉妹で奈良さんの大ファンですが、この「赫蜥蜴の閨」も異色ながら素晴らしく。特に臣さん!オールバック、灰色の三白眼、泣き黒子・・・少々垂れ目気味に描かれているのが、凶暴なくせに甘ったれた可愛いところがある臣という男を巧く映し出していると思います。(「蛇淫の禊」の後半で一枚だけ登場する臣さんの挿絵もすごく素敵です。驕慢でだらしない壊れヤクザな感じに姉妹で大騒ぎでした)対照的に光ちゃんは”攻めもできそうな受け”ということで、甘さを削いだあまり特徴的な描かれ方ではないように思います。光己の容貌に関しては、何より沙野さんの文章の中の臣が光己の横顔を眺めて思う”昔、映画で観た外国の将校”という表現がとても印象的で、そちらのイメージで空想を広げました。
シリーズである「蛇淫の血」「蜘蛛の褥」「蛇淫の禊」ももちろん後から手にし、それぞれが沙野さんが本当に力量のある作家であることを表す個性の強い物語でしたが、私にとっては「赫蜥蜴の閨」ほどに思い浸れるものではありませんでした。確かに読む人を選ぶ物語でしょうし、凄絶な内容を映し出す奈良さんの紅蓮の表紙絵と装丁に引いてしまう方もいらっしゃるかもしれません。けれど、一人でも多くの方に手にして欲しい、胸震わせる一冊です。
大満足です!
★★★★★
このシリーズ全部大好きですが、これは特に素晴らしかったです!
沙野さんワールド、フルスロットル。しょっぱなからぐいぐい引き込まれました。
王道モノながら、ありがちな展開にはならないのが沙野さんのすごいところ。
いつもビックリします、いろいろ。(褒め言葉です)
流れるような美しい文章も健在ですし、エロもたいへんにエロいです。
ストーリー展開に関しても、登場人物の気持ちの揺れや恋愛感情の芽生えなどが
とても丁寧に繊細に描かれています。
任侠モノというハードでダークな世界観にとらわれがちですが
そこは王道らしく、エロとラブがいいバランスでちりばめられており
二人がたどたどしいながらも心を通わせ始めるあたりはもう、初恋を見守る母の気分でした。
30過ぎのいい大人の男ふたりが繰り広げる、不器用で淡い恋愛模様。たまらん。
仕事する大人の男がしっかり描かれていたところも良かったです。
そしてこの作品のポイントは、なんといっても臣(攻)の可愛さ。
顔もやることも怖い男なんですが、基本甘えん坊なんです。昨年のマイベストオブ攻め。
コウちゃん(受)も、受けうけしくない頑丈な大人の男でとても良かった。
男に抱かれるという葛藤を最後まで持ち、ずっと自分と戦いつづけた男前受、ブラボーです。
個人的には超・胸キュンストーリーでしたが、
暴力表現、レイプもろもろがあるので、苦手な方は避けたほうがいいかもです。
攻めっぽい(みかけの)受け
★★★☆☆
関連作品の蜘蛛の褥や蛇淫シリーズが面白かったので、読んでみました。
好き嫌いは分かれるかもしれないなぁというのが感想です。今回は「攻めキャラとしてもいけそういな受け」ということで、受けがちょっとゴツめの180センチ。絵的にも萌える人と萌えない人がいるのではないかなと感じました。最初表紙を見たときは手を出しにくい感じがしたし。
でもそんな主人公をガッツリ攻める臣はカッコイイです。ガラの悪い大阪弁も新鮮でした。かなり理不尽なことの運びでしたが。だいぶ後半のほうまでお互いの気持ちが通じ合わないことを考えると、物語全体の甘さは控えめで殺伐とした仕上がりになっていると思います。
沙野さんは文章力が安定していて、BL小説にたまにある未熟さは感じられません。完成度の高い魅力のある文章なのでどの作品も安心して手に取れます。
今回の赫蜥蜴の閨もハズレではないと思ってます。だけど個人的な趣味として、受けが攻めっぽい見かけなのがしっくりこないので☆三つで。
ダーク過ぎ・・・・
★★☆☆☆
相変わらずの、ダークな沙野ワールドでしたね。私にはダーク過ぎでした。
私も他の方同様、「蜘蛛の褥」の久隅と神谷の大ファンなので、まずそれでガックリ。
そして、残念ながら、臣の光己への執着にもついていけず、ストーリーに入り込めませんでした。
確かに、久隅と神谷に似たカップルではありますが、執着の理由が、ただ憎い義兄に
光己が似てるから、というやつあたり的なもので光己を振り回して、子供っぽい。
でも、光己もしたたかで、ただのけなげな受けではなかったので、まだ救われましたが。
そして久隅が凪人の許可を得て、光己の腕を折る所は、やはりショックでした。いくら
神谷を傷つけられたからと言っても・・・・・オイオイそれはやり過ぎだろう。
悪役として書かれていた光己の妻には、少し同情しました。夫に愛されてない不安で、
どうしても素直になれず、やさしくできないのです。でも、不倫相手と抱き合っている
妻の姿が一番かわいらしく見えた、というのは、その相手のことを心底愛してるからでしょう。
最後には、その相手と結婚することができて、よかったね、と言ってあげたいです。
そして、やはり、久隅と神谷の続編が読みたい!!沙野さんはあとがきで、サイト上で
発表する、と言ってますが、ちゃんと一冊の本にして出して欲しい!!
これは切なる願いです。ちゃんと神谷が回復して、久隅とラブラブな姿を見ないと、
安心できません!!!
奈良さんのイラストは、もはや芸術です。すごい!!
満足!
★★★★★
やたらと鋭く、ハードなタッチが復活!の、カバーイラスト!
内容だって、負けず劣らず ハードでダーク・・・キツイですねぇ。
その、中途半端で無く、何事も容赦の無いあたりがツボ、堪りませんでした。
近頃手にしていたヤクザ物は、殆どが甘っちょろくて、ヒーローじみてて
嘘臭さにうんざりする物が多く、かなり辟易していましたので、逆に満足〜。
臣は勿論ですが、今では商社支社長である洸己だって、一般人とはいえ、かなりしたたか、
へたなチンピラ、下っ端などより、余程豪胆、曲者ですしね。
元妻・養父・義父・・・もっと制裁を!と、思わないでも無い人たちが結構居たが、
綺麗さっぱりとは片付けられておらず、少々心残りもある反面、わざとらしくなく好感が。
いずれにせよ、自分には暫く忘れることが出来ないであろう作品となりました。