いっそ「文系向き」をやめれば
★★★☆☆
はしがきには「文系向き」と書いてあるが、そのために物理現象の解説にページを割くこととなり、かつ数式を多くは使っていない為、天文学の「おはなし」が中心となっている。相対論に関する記述こそ詳しいものの、中途半端に「文系向き」を意図したためか「おはなし」中心であるのは否めない。物理法則でページ数を割いているためにその「おはなし」も物理中心となっていて、宇宙科学としては同じ東京大学出版会から出ている「宇宙科学入門」の方が幅広いように感じる。
演習問題は理系にも厳しいものがある、と書かれているとおりであり、内容説明と演習問題難易度の乖離が激しい。いっそのこと文系を対象とするのをやめ、物理法則や数学は付録に軽くまとめる程度にして同じ内容を数式を用いて記していったほうがよほど読みやすい本となることだろう。扱う内容の選択や求めるところは良いと思うが、もう少し読者対象を考えるべきだと思う。本書の対象として妥当なのは、理系的な学問について特段アレルギーは感じておらず、宇宙について興味のある人がその入口を定性的に知りたい、という人であろう。
上記のような性格から、天文学・宇宙科学全般の概論目的としては中途半端となってしまっているが、その一方、物理や数学を少々かじっている人(主に理系)が宇宙論を教養として身につけるのには妥当であろう。教養より深いのであれば物足りないが、読書の一冊としては妥当である。