見かけと価格の割に濃い内容
★★★★★
ラジオ講座のテキストなだけあって、解りやすく平易な言葉で書かれています。
文字が比較的大きく、1頁あたりの行数もそんなに多くありませんので結構さらっと読めてしまいますが、内容はかなり濃いです。
オースティンの生きた時代であるリージェンシー(摂政時代)の解説に結構紙面を割いており、
ある時代の雰囲気や為政者の言動が、多かれ少なかれ作品に与える影響について理解出来ます。
これまでオースティンの作品や手紙を読んで感じていた幾つかのひっかかりの訳も解りました。
また、次の時代であるヴィクトリア朝の作家・ギャスケルの作品『ルース』を比較対象として採り上げ、
時代が及ぼす道徳観の変化や、それが作品にどのような形で表れているかということについても分析されています。
自分はギャスケルも好きなので、これは特に興味深い内容でした。
オースティンの作品を読む上で欠かせない知識である「階級」についても詳しく述べられており、
作品中においてしばしば見られる互いの階級意識の齟齬により生じる溝や誤解について、具体例を挙げながら説明しています。
登場人物の代表的身分である準男爵・ジェントリ・牧師、彼らの作品内でのそれぞれの位置付けを改めて確認出来ました。
こういった事柄を踏まえつつ、本書の全体としての流れはゴシック小説のパロディから始まったオースティンの執筆活動を
順を追って辿り、その変遷を見ていく―というものです。特に人物像について触れた部分はなるほどと思いながら読みました。
初めはストーリーも人物もゴシック小説のパロディだったのが、最終作品『説得』においてはそのカリカチュア的色彩が
もはや姿を消している、その変化の過程が、6つの代表作と初期の習作や未完の作品、手紙を元に詳しく説明されています。
(数ページではありますが、映像化された作品ついても触れています。)
各作品とも最初に簡単なあらすじが付されていますが、あらかじめ全ての作品に目を通し、内容を押さえてから読むともっといいかもしれません。
瑣末なことではありますが、『マンスフィールド・パーク』中にてサー・トマスの留守中に家庭劇を催す場面、
あれがなぜ良くないことだったのか、今回図らずも知ることが出来ました。
時代や国や価値観がセットで異なってくるとこういった事柄についてはとたんに理解が難しくなるので、このような本の存在はとても貴重だと感じました。