夢幻の世界にいざなってくれるツボ
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「新しい芸術」とも訳されている「アールヌーヴォー」の様式は、19世紀末ヨーロッパの芸術全域において新しい価値転換を巻き起こした。本書の中心人物エミール・ガレはガラス工芸デザイン家で、日本でも人気の高いフランスの工芸作家である。北沢美術館所蔵の三つのツボを紹介する。
壱のツボは「ガレ蜻蛉文脚付杯」…大理石に似せたガラス素地に、羽音の響きまでも写しとった杯。ガラスを超えた重厚感にガレの本領がうかがえる。
弐のツボは「ガレ昆虫文水差」…光の当て方によってガラスの表情が刻々と変わる、その特性を最大限に活かしたのが、ガレのガラス器と言える。
参のツボは「ドーム花畠文水差」…顔料を盛って凹凸をつけた膨らみのある草花、優しい色合いをもつ風景の広がりが特徴。
重厚なガレと、軽妙なドーム。互いに美点を引き立て合う作風で、コントラストをなす。今日もなお世界中で彼らのガラス工芸が好まれているのは、自然主義的な主題であり、永遠に美の深淵をのぞかせてくれることによるものと思う。本書でその美を垣間見ることができる。