良いです。kemのアルバムの中でも、２枚目を凌ぐ最高傑作でしょう。既発のMAZEのトリビュートアルバムで久々にKEMの歌を聞き、ニューアルバムをとても期待していたんですが、予想以上の出来で安心しました。KEMといえば男版シャーデーとでもいえそうなジャズサウンドの傾向が強い既発盤２枚をリリースしていましたが、スローなバラード曲ばっかりで、サウンド、歌ともに悪くわないけれど、インパクトに欠け、マンネリ感を脱却できなかったように感じていた。（日本とは違い、本国アメリカではセールスはもとより、アーティストの評価もかなり高いようですけれど。）しかし本作は期待以上の出来です。
お得意のバラードもあるけれど、オープニングの１．WHEN I`M LONG YOUから力強いボーカル、シンガーとしての深みが十分に感じられます。甘いバラードは当然うまいんですが、ミドル系の歌を唄っても、十二分に歌いこなせる力量を、本作で発揮してくれています。「静」と「動」、合い交わった音の展開は見事です。

「クワイエット・ストーム」という音楽ジャンルがある。都会的で官能的な雰囲気を纏ったミドルテンポの音楽全般を指し、
平たく言うと「アダルトな音楽」という表現が似合う。近年その支持層に絶大な人気を得ているR&Bシンガーがいる、本盤
の主役Kem(K.Owens)である。先行シングルは毎回長期間米「アダルト・コンテンポラリー・チャート」上位に居座る等、
その人気の上昇振りは目覚ましい。作品自体も1作ずつ確実に質を上げており、今回発表された3枚目の本盤は実に高
品質で、聴き手に最高のリラクゼーションと官能を提供する良曲が揃った。

全体に70年代ソウル全盛期を彷彿させる生楽器主体の演奏と、彼のセンスの高さが発揮された洒落たジャズの和声フレ
ーバーを散りばめた正に大人の為の音楽になっている。冒頭の「When I'm Loving You」。雨のＳＥ音からボサノバの心地
良いグルーヴにKemのソフトで体を愛撫するようなきめ細かい歌声が乗れば、もう気分は早くも夢心地。個人的な白眉は
5曲目の「Human Touch」。キーボードとギターが奏でる心地良いループの上で、女性の躰を優しく指先で確かめるように
ワンワードを噛み締めるKemの歌が最高にセクシーなミディアム。終曲の「Golden Days」。バラードの比率が多い彼の作
品の中では異色のアップテンポの3拍子ナンバー。軽やかに舞い上がるスキャットとリズムに絡み付くように歌いあげる素
晴らしい日々への賛歌。終盤に突如現れるジル・スコットのリーディングと彼の音楽との相性も最高だ。

餓鬼臭い音楽は飽き飽き、かと言って攻撃的な実験ポップスも苦手。シンプルに良いメロディーと歌をお探しの大人の方々
に是非推薦したい一枚。男女問わず、眠りにつくまでの至高のBGMとして体中をとろけさせてくれるはずだ。