ここ百年における住宅というものの漂流物語!
★★★★☆
これは、誰もが必要な住宅を、安くかつ満足のいく仕方で提供しようとする住宅生産の工業化の夢と挫折についての本である、と言ったら言い過ぎだろうか。興味深い住宅に関する逸話や歴史がいっぱいつまった本だけれども、住宅工業化の夢という問題意識にそってこの本を読んだ方が、分かりやすいと僕は思った。
ジャック・プルーヴェについての一章は、何か心に沁みた。ジャック・プルーヴェの作った住宅を吟味できる環境にないけれども、この本で紹介されているその人の生き方・考え方には心を打たれるものがある。T型フォードに代表される自動車の大量生産とは違った仕方で、つまり「二十世紀的な工業技術の可能性に魅了されながら一方で十九世紀的な物づくりの精神」をプルーヴェは忘れなかった、と著者は言う。芸術と工業技術の交錯するところにまさしく立ち、また権力者によりそった英雄的建築作品とは一定の距離をおいた人だった。工場で生産される部品の組み合わせによる住宅でありながら、革新性と創造性により人間が住まうことに求める質感をプルーヴェは追加しえたのだ、と僕は想像する。
もう今ではプレファブとは言わなくなってしまったが、ハウスメーカーによる住宅商品の変遷についての実証的エッセイも読み応えがある。長年大工と相談しながら建てる注文住宅に馴れたこの国の伝統においては、ハウスメーカーは量産効果によるコスト低減をねらった商品には向かわなかった。しかし、ここで紹介されているミサワホームの百万円住宅「ホームコア」(1969年)の成功は唯一の例外として何とも楽しい。
本書は、ここ百年における住宅というものの漂流物語としても抜群に面白いが、僕たちが、家を建てようとする時、見てよい夢とそうでない夢を検証する上でも非常に参考になる実用的書物であると思う。