ローマを観光する人に是非勧めたい一冊。ローマではヴァティカン美術館、ボルゲーゼ美術館、そしてバルベリーニ宮殿やファルネシーナ荘といくつかの教会を巡ることで、ラファエルロのマスターピースの殆どを鑑賞することが可能だ。その時にこの小冊子が心強いガイドブックになってくれる。携帯に便利なコンパクト・サイズだが、上質紙に印刷されたカラー写真を伴った簡潔明快な解説で作品の成り立ちや、その価値が即座に理解できるように構成されている。

著者はラファエルロを「天上の霊感に満たされた神童」と形容しながらも、その作品への評価には手厳しいものがある。その理由は、彼と同時代に生きた大先輩レオナルドやミケランジェロの姿があまりにも超人的で巨大であった為だろうし、また彼自身が未知数の可能性を残して３７歳で夭折したこともその要因だろう。彼女は次のように評している。「彼の魂は巨匠達のなかでは最も日常的な、健全な人々のそれであり、ごく正常な女好きの人であって、ミケランジェロのような神がかりな新プラトン主義者ではとうていなく、レオナルドのような科学者、哲学者、同性愛者ではさらになかった・・・彼の芸術が、宗教の大衆化するバロック期に、どれほどの権威をもって他の二人を押しのけ君臨するかをのちの歴史にみるなら、彼が後世で果たした役割の大きさのきわめて多くがその大衆性に根ざすものだった、ということが解ろう」と。