本書の中心は、『The Lord of the Rings』を、言語学・文化的な面、複雑に交錯する物語としての側面、神話的な側面から考察した3つの章にある。その中で、著者は「悪の本質」に関する独自の見解を示している。また著者は、物語の中心をさまざまな人物に移しながら、複雑に織り込まれていく数々の主題と、このような複雑で奥の深い物語を組み立てるのに不可欠な、卓越した技術について考察している。他の章では、『The Hobbit』を取り上げ、ホビットと壮大な「中つ国」の太古からのつながりを解説したり、『The Silmarillion』が後の大作に与えた重大な意味について触れたり、『Farmer Giles of Ham』(邦題『農夫ジャイルズの冒険』)、『Leaf by Niggle』(邦題『ニグルの木の葉』)などのあまり知られていない作品と、トールキンの生涯の関係を取り上げたりしている。
著者は、トールキンと幻想文学、文学における言語の重要性の新しいとらえ方を、明解にわかりやすく説いている。そして、グリム童話やベイオウルフにルーツを持ち、今も脈々と受け継がれている物語づくりの伝統の一部を、『The Hobbit』『The Lord of the Rings』『The Silmarillion』がどのような形で担っているかを教えてくれる。
トールキンとその作品に対する理解を深めるための本としてだけではなく、多大な影響力をもった幻想文学の最高傑作についての、学術的でありながら、入門書としても役立つ1冊。