親鸞聖人の実像に迫る
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日本の宗教家の中で、親鸞ほど多くの書物が出ている人物はない。我が国で最多の信徒(門徒)数を擁する浄土真宗の開祖であるとともに、肉食妻帯や悪人正機などユニークな発想の思想家だったからだろう。 それ故に、ありきたりの作品では意味がない。小説では有名なものでも、吉川英治の、いかにも時代劇風の勧善懲悪のアクションに富んだ作品や、丹羽文雄の、続編のの「蓮如」と続けると平安から戦国時代までの真宗側からみた雄大な仏教史と言った作品がある。「弥陀の橋は」は、親鸞の著書や書簡、弟子や曾孫覚如の文章を通じて、自力聖道門を捨てて他力の念仏を摂取した親鸞の信仰の変遷と布教の歴史を、その人物像に迫って描く作品である。「教行信証」など古文・漢文の引用が多く、一般小説のつもりで読むと退屈で読みにくいだろうが、より親鸞の実像に迫りたいという著者の情熱が生きた作品だと思う。