2003年に来日した際、東京でスタジオ録音した作品。デヴィッド・ヘイゼルタインを中心とするコンボをバックに濃密な歌声を聴かせるマリーナ。たとえディープであっても、その歌声はけっして腹にもたれることなく、どこかサラッとしている。たとえれば、排気量の大きい車がゆったりと走っているような安定感があるのだ。だから聴いていて、とても気持ちがいい。エネルギッシュな熱唱が魅力だった前作のライヴ盤と違って、どちらかというと押さえた感じの歌が多いが、聴く者をぐいぐい自分の世界に引きずり込んでいく迫力は変わらない。
選曲はスタンダード集といっていい内容だ。ただし比較的新しい世代の曲、たとえばビリー・ジョエルやビル・ウィザーズ、ベナード・アイグナーらの曲を取り上げ、自身のカラーに色づけしているところにコンテンポラリーなセンスを感じさせる。キャリアに裏打ちされた余裕の歌声はさすがというしかない。ヘイゼルタインがフェンダー・ローズを弾いて懐かしい気分をかもし出しているのもいい。(市川正二)