平成19年度から特別支援教育が始まったが、まだまだ本格的に起動しているとは言い難いのが現状ではないだろうか。特にLD、ADHD、高機能自閉症、アスペルガー症候群といった高機能広汎性発達障害の子どもたちへの対応は端緒についたばかりといっても良いだろう。これらの障害を持つ子供たちの持つ問題はなかなか理解が難しい。これまで障害児教育の対象であった子どもたちとはまた一風変わった特徴が現場での混乱を招いているのが現在の状況である。

本書は「学校現場の実態を憂慮し、教育現場の教師が読んで役立つ内容」を目指して書かれたものである。執筆者も福祉や医療の人間ではなく、主として教育分野に関わる人間を集めている。医療的な側面からの障害の説明やある種の手法の紹介を中心とせず、教師としてどのように関わっていったらよいかを豊富な具体例・実践例をもとに記述しており、執筆者たちの目論見通り、現場で役に立つ内容に仕上がっている。広汎性発達障害を持つ子どもはそれぞれが独特の問題を持っており、本書に紹介された手法が全ての子どもに使えるものではないが、どのような問題に対処するためにどのような手法を使うことにしたかというプロセスを理解すれば、応用できるところが非常に多い。杓子定規に取り組みをまねるのではなく、子どもを理解しようとする過程こそをまねて初めて本当の支援ができると感じた。

「特別支援教育のプロを目指す教師のために」と少々大袈裟な副題がついている（そもそも教師はみんな「プロ」のはず）があながち的外れではないだろう。非常に実践的で、参考とすべきところの多い書であった。