考察型の刑法教科書
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平野龍一博士が最初に指導された6人のお弟子さんの一人が、この刑法各論の著者・林幹人教授である。特に財産犯研究の第一人者。この教科書でも180ページほど費やされ、学生が躓きやすい財産犯の説明に力を入れておられる。もちろん、各論の教科書としてのバランスはとてもよく現在問題になっている論点はほぼカバーしている。
初版とこの第二版、総論の初版・第二版を拝読して感じたのは、さすがに文体が師匠・平野博士に似ておられるということ〜法学セミナーに掲載されていた平野博士の「刑法の基礎・刑法各論の諸問題」(1972年5月〜1975年4月?)の問題意識に答えるように書かれているので当然ではあるが。既存の刑法テキストのように刑法の初学者に定義や言葉の意味を教えながら論をすすめるのではなく、問題を提起しながら、読み手にまず考えさせて、論理を展開するという叙述スタイルである。その意味では小論文のようなテキストと言ってよかろう。同じ平野シューレの前田教授のテキストのように読み手が最終的に資格試験などの答案を書くことを前提に構成されているものではないので、結論先行タイプの人には向かないかもしれない。まずは考えることが先にありきのテキストである。そのためか、脚注の正確さは従来から折り紙付であり、平野シューレの学者先生ばかりでなく関西学派の先生の最近の文献までフォローされている。巻末の参考文献の呈示も刑法教科書でここまで必要かと思えるくらい詳密である。判例は平成17年までフォロー。