素晴らしい入門です
★★★★★
全4章、170ページのコンパクトな本の中に、基本ポイントがおさめられている。著者が考え
る線型代数のイメージが書かれたものである。
1章「行列式の話」では、行列の定義と基本変形、行列式の定義と基本変形が、クリアに
解説される。クラーメルの公式がとりあげられ、また行列式が面積と体積の表現であること
が解説される。
初めの1章は、言ってみれば、行列と行列式の変形の「型」の解説であり、型に習熟した
後にその「心」が説かれることになる。
2章「線型空間の話」では、幾何ベクトルは「同値類」の考えに基づくものであり、ひとつ
一つのベクトルは、線形空間が定義されて初めて意味を持つことが、卑近な例で説明される。
線型空間はさまざまな次元をもつこと、また線形空間は「基底」によって表現されるが、基底
のとり方で空間の特徴がはっきりと表現されることが指摘される。4章につなげられる。
3章「線型写像と行列」では、線型写像の像と核、同型と同型写像が語られ、線形写像が行
列で表現されることが示される。
ここではいわば、線型空間の森に立ち入って、思いがけない線形写像が観察され、また基底を
変えた時に、表現行列がどのように姿を変えるかが検討される。
4章「線型写像とその行列の標準形」では、行列の対角化、ジョルダンの標準型の話になる。
応用例がいくつか示される。
さいごの5章「計量空間とユニタリー行列」とつづく。
計算を中心にした本に対して、本書は、やや俯瞰的に線型代数の森を見て、線形代数とは
何か、をイメージ豊かに描いた本である。
思いがけない線形写像の例が出てきたり、巧みな解説で、いままでわからなかった内容が
わかってきたりする。
計算にも十分配慮され、式の変形過程がていねいにたどられ、パソコンプログラム例もついて
いる。
どこを開いて読み始めても楽しめる本である。