近代の京琳派の巨匠 神坂雪佳
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神坂雪佳は好きな作家です。京都岡崎にある細見美術館で彼の残した数々の作品と遭遇し、ますます好きになったところへ、本書の刊行と出会いました。筆者である京都市立芸術大学名誉教授の榊原吉郎先生の解説が詳しく分かりやすいものでしたので、神坂雪佳の作風の本質に迫ることが出来ました。
明治・大正・昭和という3つの時代において、絵画や工芸作品の分野でユニークな作品を残した神坂雪佳ですし、京琳派という流れを確立した人物ですので、その功績は図り知れません。たらし込みの技法を駆使していますので、その味わいがまたその良さを引き立てています。「叢華殿襖絵」「四季草花図屏風」「杜若図屏風」などはその代表作と言えるでしょう。
34から35ページにかけて、金魚を正面から描いた「金魚玉図」が掲載されています。絵画ですが、イラストレーションのはしりに見えなくもありません。このように現代の意匠デザインに通じる作品も多いゆえ愛好家が多いのでしょう。京琳派の代表という評価をより高めるものでした。
69ページからは、「雪佳の工芸」というテーマで、蒔絵螺鈿の硯箱、陶器等の食器のデザイン、衣装図案や染織品など、多方面の活躍ぶりが伺える作品群が載せてあります。一人の作家として様々な美術ジャンルに活躍し、後世に数多くの影響を与えたことを考えますと、神坂雪佳を抜きにして琳派の系譜の流れは成り立たないでしょう。「光琳の再来」という評価は至極真っ当なものだと思います。琳派ブームが押し寄せている今日、神坂雪佳を正しく評価することで、琳派のもつ弱点と強みを理解してほしいと思います。
巻末に神坂雪佳の年譜と染織図案等が収められています。