社会劇の傑作と言われるこの作品。確かにこの本が書かれた当時の背景を考えると、妻の借金により夫が救われたことは男のプライドがゆるさないのだろう。しかし、昨今の状況を考えるとまだかわいいもんだと思ってしまう。
昔の人達にとっては最後の家を出るシーンは衝撃だったんでしょうねぇ。
銀行家の妻ノラは、クリスマスの準備で大忙し。病気だった夫が、イタリアで保養してすっかり元気になり、そのおかげで銀行の頭取の仕事を得ることができたので、来年からは生活の心配がないのです。しかし、夫がイタリアで保養できたのは、実はノラの献身的な金策によるもので、その裏には…。
女性解放の視点から語られることの多いこの作品ですが、わたしは、女性に限らず近代的な人間開放のメッセージを読み取りました。共同体的束縛から自由になっていくノラやその友達の女性の姿が誇らしく描かれています。しかし、自由と孤独は同じコインの両面であり、自由になった現代人が生きる軸を見失っている現在においては、イプセンの視点はナイーブとも言えます。!歴史的な背景を考えつつ読むことによって、今の我々の社会が抱える問題点を明らかにしてくれる、そういう意味では必読の書でしょう。徐々に進んでいく謎解きだけでも単純に面白いですし、訳も平易で読みやすいです。