さて、しかしそんな事情は作者のモームには当然まったく関係なく、本書は非常にすぐれた紹介であり、評論である。本書冒頭に「小説とは何か」という章を設けたことからもわかるように、モームの文学観が確立しており、しかも読者にわかりやすく説明しているから、読者は、なるほど、モームはこう読むのか、と客観の罠に陥らずに読むことができる。
読んでいない本は読みたくなり、読んだ本も再読したくなる。これだけで、モームが類まれな語り部であることがわかる。
まず『白鯨』と『カラマゾフの兄弟』と『トリストラムシャンディー』は特にこの中でもお気に入りでして理由は
『白鯨』は百科全書的にいろんな知識を得られるから。特に冒頭の鯨の解説は面白い。『カラマゾフの兄弟』はズバリ上巻に小説の醍醐味が凝縮されています。非ユークリッド幾何学や社会主義など。下巻は裁判の話でそんなに面白くありません。『トリストラムシャンディー』は話の脱線に次ぐ脱線でしてあらすじよりも挿話を重視する小説です。
『トムジョーンズ』など現在聞き慣れないタイトル名の英文学が2作入ってますが、これはモーム自身英国作家だからでしてどうしても自国に肩入れしてしまうのは止むを得ない。