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仏壇におはぎ

価格: ¥1,575
カテゴリ: 単行本
ブランド: 角川春樹事務所
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なにげなさと優しさと ★★★★☆
 三度めの仕事には週に二日夜勤があった。真夜中頃仮眠部屋に戻ると週間ブック・レビューという番組で村松友視が紹介していたのがこれだった。今どきこんな写真を撮ったりしている人がいるんだという小さな驚きがあった。どこかのライカ本に載っていた彼女の一枚の猫の写真を思い出した。
 『初めてライカで写したのは、墓地の野良猫。写真を見てびっくりした。陽が墓石の表面をてらてらと舐めている具合が、よーく写っていたのだ。墓石の陰から覗いている猫の毛の具合も、いい感じ。うわあ、この機械は写真が上手いなあ、すっかり感心し、カメラに感謝した。・・今使っているライカM2は、1958年に製造されたらしい。これより古いもので、いまだに使っているものがあるだろうかと家の中を見回してみたら、この私しかいなかった。』
 このクスッとさせるところが花さんの優しさというか読者へのサービスなのだ。
人には人にいう程のことでもないことがあり、写真も人に見せるほどでもない写真がある。うまく撮れればそれにこしたことはないが、要はいいなアと感じたものがそのとうり写っていればそれでいい。客との応接でいらだっていた頭のなかでそんなことをつぶやきながら頁をめくっていた。
 母堂百合子さんのエッセイ集『遊覧日記』の冒頭にある『浅草花屋敷』もしみじみとしたいいものである。
日なたの匂いがする写真たち ★★★★☆
 季節はずれの海の家、ひなびた温泉のスナック街、ガードレールに長いアゴを乗せてくつろぐ馬......

 武田花の写真は、スピードや流行や時代とはまったく縁のないモノ達の、モノクロームの世界である。そのモノ達が取り残されたのか、背を向けたのか、無頓着なのかは知らないが。そして、そうした場所はとても居心地がいい。皆が皆、好きでスピードや流行や時代に身を委ねている訳ではないのだ。武田花の写真は脱力系、なごみ系の元祖という形容も成り立つだろう。だけど、本文には次のようなくだりがある。「奇抜なことを言って、自分を個性的な人間だと思わせたいという魂胆が気に入らぬ、可愛くない」。武田花の写真も、レトロとか、作家の娘といった記号からは100%自由であり、思いっきり肩の力が抜けている。斜に構えたところや、思わせぶりなところのまったく無い自然体で、そこが武田花の最大の魅力と言っていい。普通に撮ればトリッキーになったり、批評性だけになったりしてしまう素材を、ほんとに自然に、魅力的に見せてくれるのだ。武田花の写真は明るくおだやかで開放されている。じめじめとかび臭くなりそうなものなに、なぜか日なたの匂いがする写真なのである。