武田花の写真は、スピードや流行や時代とはまったく縁のないモノ達の、モノクロームの世界である。そのモノ達が取り残されたのか、背を向けたのか、無頓着なのかは知らないが。そして、そうした場所はとても居心地がいい。皆が皆、好きでスピードや流行や時代に身を委ねている訳ではないのだ。武田花の写真は脱力系、なごみ系の元祖という形容も成り立つだろう。だけど、本文には次のようなくだりがある。「奇抜なことを言って、自分を個性的な人間だと思わせたいという魂胆が気に入らぬ、可愛くない」。武田花の写真も、レトロとか、作家の娘といった記号からは100%自由であり、思いっきり肩の力が抜けている。斜に構えたところや、思わせぶりなところのまったく無い自然体で、そこが武田花の最大の魅力と言っていい。普通に撮ればトリッキーになったり、批評性だけになったりしてしまう素材を、ほんとに自然に、魅力的に見せてくれるのだ。武田花の写真は明るくおだやかで開放されている。じめじめとかび臭くなりそうなものなに、なぜか日なたの匂いがする写真なのである。