英語の日本語学入門テキスト
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解説は解かりやすく、内容も音から文法一般、最後にスタイルと基本的なことはだいたいおさえてあり、英語圏で学部一年が使用するのに最適の入門書だといえます。日本なら演習やゼミで使えると思います。
問題点を挙げるとするなら、これがはたしてup-to-dateなテキストかということだと思います(1996年出版という時代性を考えますと)。例えば統語論ですが、生成文法の初期のアプローチを日本語に応用する分析は70年代に出尽くしており(黒田、井上)、その後、理論は劇的に変化していますので、初期の分析の紹介にとどまっている本書の解説には?が残ります。もちろん入門書なので最新の理論の応用から入ると言うのは難しいかもしれませんし、このテキストの内容は、バックボーンとして知らなければならないものだとは思いますが、どうしても物足りなさを感じてしまいます。その他、意味論に関しての記述が他の分野と比較するとかなり簡略化されており、語用論はまったくないなど、特定の分野、アプローチに偏りが大きいというのも、もしかしたら日本語学概説のコーステキストとしての使用に制限を加えるかもしれません。
しかしながら、日本語学の入門テキストは星の数ほどありますが、英語のテキストは意外と少ないのが現状です。その点こそ本書の最大のセールスポイントだと思います。久野、柴谷両氏のテキストはこの次に進むのがいいかもしれません。