赤ちゃんという普通は可愛らしさの同義語である存在をもって、このような恐ろしいグロテスクな怪物に描きあげたところが、なんとも凄い。それでいながら、このタマミにはある種奇妙な可愛らしさやユーモラスなところもないことはないのだ。このあたりに作者がずっとこだわり続けることになる、子供についての直観や見識をうかがうことができる。
全体のストーリーは薄幸な生い立ちの美少女が遭遇する恐怖の体験という昔ながらの少々陳腐な内容だが、対する怪物タマミの存在によって不朽の作品になったように思う。惜しむらくはタマミがこれ一作で消えてしまったことだ(実は「恐怖」シリーズ中の一篇で唯一コマ、タマミがでてくる。どの作品なのかは探してのお楽しみ^^)。
他の収録作では「黒いねこ面」が充実している。初期の丸い描線による作品だが、伝統的な化け猫話しをモチーフとしながら、楳図ならではの怪奇と幻想の世界を描き出している。