家族愛・陸軍への愛・国家への愛
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元陸軍大将・統合参謀本部議長にして黒人として初の国務長官を務めたコリン・パウエルの自伝。貧しいジャマイカ移民の子として生まれた黒人の子供が陸軍のトップに上り詰めるというまさにアメリカン・ドリームを体現するようなその半生を語っていく。本書「−少年・軍人時代編―1936-1977」がカバーするのは「第一部生い立ち」と「第二部軍隊生活」である。陸軍軍人としてそのリーダーシップを磨いてきた西ドイツ、ヴェトナム、韓国といった冷戦の最前線に駐屯、あるいは戦闘参加した時の回想は読み物としても興味深い。
「これは愛の物語である。家族への愛、友人たちへの愛、陸軍への愛、祖国への愛。そしてこれはアメリカだからこそありえた物語なのである。」とパウエル自身が書いているように家族との思い出、兵役と様々な戦友や尊敬すべき上官との出会いが陸軍への愛、そしてアメリカへの愛へと直結していく過程が生き生きと描かれている。興味深いのはやはり一人の黒人としてパウエルが直面する人種隔離・差別の経験だろう。「君が兵隊で黒人だったとすると、膀胱はでかくて丈夫なほうがいい。なぜかというとワシントンDCからフォート・べニングに来るまで立ち寄れるトイレがほとんどないからだ。」だが、50〜60年代になってなお人種隔離体制の残存する南部の各地で様々な差別を蒙りながらも、いち早く人種統合がなされていた軍の駐屯地だけは人種差別は少なく平等の機会と処遇が保障されていた。「陸軍はアメリカの他の分野に一歩先んじて民主主義の理想を実現していた」のである。50年代後半に成人する世代の黒人にとっての軍隊が持っている意味、軍隊観、そして軍隊への愛が国家への愛に直結していく回路がこの上なく現れているように思う。パウエルの思想形成過程を知るには当然必読の一冊だが、この世代の黒人男性の社会的生存・社会的上昇戦略を示す極端だが典型的でもある一例と言えるかもしれない。
アメリカが眩しく見える
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湾岸戦争のもう一人の英雄,シュワルツコフ将軍の自伝を先に読んでいたため,非常に興味深く読み終えた。
シュワルツコフは父親が軍人であり,典型的な WASP の課程に育ち,父の仕事の都合で外国生活が長かった事から,ドイツ語,フランス語,ペルシャ語を,話す。ウェストポイントへ進学,以後,軍人としての出世街道を進んでいる。
一方,コウリンパウエルは貧しいジャマイカ移民の子どもで,マイノリティー,ニューヨークのサウスブロンクスに育ち,小学校から大学までニューヨークから出る事もなく育っている。軍に入隊したのは予備役将校訓練課程を終えてニューヨーク市立大学を卒業してからであり,シュワルツコフとは出自も育った環境もまるで異なるが,入隊してからの彼もまた,出世街道を突き進んでいる。
出世街道を歩んだ二人であったが,様々な意味で,対照的であった。最後まで軍人であったシュワルツコフと,本人が望むと望まざるとにもかかわらず,政治との繋がりを深めたパウエル。シュワルツコフの自伝に,こんなくだりがあった。
統合参謀本部議長の候補者の一人であったシュワルツコフは,知人から「統合参謀本部議長はパウエルに決まるだろう。彼はホワイトハウスとの繋がりが深いし,軍人と言うより政治家だ」と聞かされている。それに対し,シュワルツコフは「パウエルは根っからの軍人だ。ベトナム戦争で前線で戦ったんだ」と,パウエルを擁護して書いている。
この一文に,シュワルツコフとパウエルの違いが見て取れるのではないだろうか。何よりも,生粋の軍人である事を誇りとしたシュワルツコフ。彼は確かに頭脳明晰だろうが,文章の端々に激しい性格を感じさせ,その上エリート臭が嫌みに鼻につく。一方,マイノリティー出身のパウエルは,周囲の人間を良く監察し,いい意味で敵を作らない。こうした彼の温厚な性格ゆえに,上からも下からも信頼されて活躍の場を広げ,最終的に,彼の才能は軍人の枠を超えている。
こうした対照的な二人に共通していたのは,圧倒的な愛国心と,国を守るのは自分だ,という,強い自負心である。日本では「愛国心」はなにやらタブーめいているが,何のてらいもなくそれを口にできるアメリカ人が,素直に羨ましく眩しく見える。
真のBest and Brightest
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戦後の米国の歴史に多くの影響を与えているベトナム戦争に関しては、学生の頃バルバースタムの著作などを読んでいたが、その同じ時期に若きPowellが真のBest and Brightestになるべく参加していたことは当時白人優位の社会であった米国の底の深さを感じさせるものであった。とは故、本書は、非常に苦労した人生を毅然とした人生感を持って描かれている。持ち歩いて読むには大部ではあるが、その魅力の故あっという間に読んでしまった。
この本を読み終えた時に、黒人運動家の母がこの世を去り、彼女がいなければ今日のライス長官やPowellは存在しなかったとのコメントがあった。確かに運動の象徴的な存在であったが、この本を読んでみれば、彼が彼女の存在とは別に、国を愛する心、家族を愛する心、軍人としての誇り・実績により、真のstatemanになった事が良くわかる。
リーダーシップの考え方についても、変なノウハウ本を読むのではなく、本書を読むことをお奨めする。
愛の物語
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元国務長官コリン・パウエルの半生(国務長官就任前まで)が書かれている自叙伝。ボリュームはそこそこあるが、興味深く書かれているのでそんなに苦にならなかった。ジャマイカから移民してきた黒人の子供としてブロンクスに生まれ、黒人であるがゆえに様々な差別を受けながらも卑屈にならずアメリカを愛し、仕事に誇りをもって生きてきた男の半生が上手く書かれている。アメリカの軍隊の仕組みや彼が関わってきた歴代大統領〔ニクソン、カーター、レーガン、ブッシュ(父)、クリントン〕の人柄も垣間見れる。邦訳版が出るにあたり、著者が書いたメッセージ:「この物語には「マイ・アメリカン・ジャーニー」という題をつけました。しかし私は日本の読者の皆さんが、そこにご自分にとって身近な何かを見出してくださることを望んでやみません。なぜなら、これは愛の物語、家族への、仕事への、そして国への愛の物語だからであり、そうした感情は、たとえどこに住んでいようと、世界のどこでも共通する、人間の普遍的な感情であると信じるからです。」は著者の人柄を現わしていると思う。
大義なき戦争はしてはいけない。
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軍人らしい朴訥とした語り口で、アメリカの現代政治や軍事情を垣間見ることができます。「大義なき戦争はしてはいけない」これが彼のモットーだとすれば、今の第二次湾岸戦争とその後の経過をどのような思いで見ているのでしょうか?戦争開始直前のブッシュ政権内で、唯一国連との協調を主張した人物です。だからこそ彼の自伝を読んでみたくなりました。話の端々に家族愛溢れる人柄が見え、アメリカ国内で人気があるのもうなずけます。原書には、英検1級クラスの単語が沢山出ていたので、語彙復習には丁度良かったです。