白樺派の童話・・・・。
★★★☆☆
訳者の北御門二郎は筋金入りの反戦主義者だ。彼は本物の徴兵拒否を貫いた人らしい。丸谷才一の佳作『笹まくら』では、徴兵拒否がテーマとされ、主人公は戦時中は放浪して身を隠し、戦後もいつもそのことを抱えて、表に出さないように生活する。良心的徴兵拒否などが断じて認められなかった戦時中のニッポンでは、驚くべき体験であろう。評者は、現代ニッポンには、いまだに「絶対許されない」精神性が残っているとみているが・・・。
ベトナム戦争のとき、カシアス・クレイ、後のモハメド・アリは徴兵を拒否、獄中生活を経験している。
おそらく北御門の体験は、もっと研究されるべきであろう。大西巨人はどう考えているのだろうか。
それはともかく、最近、町田宗鳳著『愚者の知恵 トルストイ「イワンの馬鹿」という生き方』 を読んだのを機に、岩波文庫版はじめ、本書などトルストイの童話物をいくつか手にとってみた。 町田本では北御門にも言及し、彼の訳書に拠っているようだ。
町田は、トルストイの童話に対して単純な解釈をしすぎるように思い「『イワンの馬鹿』にはもっとノリシロがあるだろう」と思っていた。つまり、あまりに単純な解釈をしてもイケナイだろうと。しかし、今回、原作も案外解釈の余地が狭いなと思った。説教である。これぞ、白樺派の限界を見たと確信させられた。ドストエフスキーはこうは書かないだろうことは、評者には疑いないと思われた。要は貴族の「食うに困らない」立場から書かれたものに過ぎない。今、我がニッポンは食うに困る人が大勢いる。誰しも、いつその境遇に落ちるやもしれない。赤木何某というフリーターが「同情するなら職をくれ」「職がないなら戦争だ」という時代である。彼の物言いには大きな問題があるが、それでも少なくともトルストイの童話から人生訓を引き出すよりは、状況認識としてリアルだと思わせる。
☆3つは北御門への敬意だ。原作自体はそれほど面白いとは思えない。岩波文庫のもしかり。