字を書くことを覚えたよ、でもいつのまにかほとんど書かなくなったわれわれは、文字文化のいったいどこにいるのか?
★★★★★
非常におもしろい本です。作家たちの筆跡がわかるだけでも、買っておく価値あり。で、ひとりずつ見てゆくと、はあ〜と思うことの連続です。字って、好き嫌いはたしかにある。かっこいいと思うのも、そう思わないのも、ある。かといって、これ下手っぽいなあと思っても、なんともいい印象を受けるのもあるし。そしてそうしたすべてが書家の眼から見るとどうもぜんぜん違ってみえるらしいことも、よくわかりました。解説はいちいちおもしろいのですが、鋭すぎてちょっと飲みこみづらいところもあり。まあ、いろいろ見てゆくうちに、こっちも眼が肥えてくれば、わかるんでしょう(とはいえ眼がほんとに「肥えた」ら、こわいね)。現段階のしろうと判断では、やっぱり谷崎潤一郎なんて達筆だなあと思います。岡本かの子(そう、太郎さんのおっかさん)もかっこいい。吉行淳之介なんかは下手ウマかな。中上健次は息を呑む壮絶さ。そして「酒鬼薔薇聖斗」の異様な文字。たしかに文字は人です、個性です。文字からその個性を判断することはできないにせよ。名著といっていいでしょう。