読み手を選ぶ傑作
★★★★★
ストーリーはいささか凡庸なところもある(日本昔話ふう)が、詰まらないわけではない。それよりも傑出しているのは、文体だ。現代の小説家には及びも付かないような高レベルの文体だ。語彙は豊富で適切で、文章は緻密で、異常に密度の高い文章となっている。これに近いのは、初期の谷崎や、全盛期の三島由紀夫だろう。他にはほとんど見られない高度な文章だ。
感動したあと、「現代の若い人には理解できないだろう」と思って、アマゾンの評価を見たが、高い評価をする人が多いので、驚いた。現代でも、この文章を理解できる人が多いとは。
この作品は、二つの顔で現れる。文章理解レベルが非常に高い人には、傑作と見えるだろうが、凡庸な人には、何も理解できないままとなるだろう。
(あとで思い出したが、武田泰淳の「才子佳人」も似た作品だ。)
石川淳のどこが面白いのだろうか
★☆☆☆☆
石川淳は、フランス語、漢文ができてすごいが、それだけで、小説は面白くない、と言われて久しい。この「紫苑物語」を私は高校時代に読んで、こういう小説なら書けるかもと思ったが、要するに高校生の空想程度のものでしかないということだ。それでも石川淳が消えずに残っているのは不思議だが、もしかすると高校生が読んでいるのだろうか。大人の読みものとはとうてい言えない。非リアリズムも結構、泉鏡花くらいになれば見事なものだが、石川淳というのは非リアリズムのダメなほうの例として残るといいかもしれない。
元気出ます
★★★★★
日本の小説の中では、これほどの美文に出会ったことがない。個人的には、谷崎も三島もこれに及ばない。また、これほど読み返したい文学もあまりない。なんでこんなに魅力的なのか、とつくづく思う。
精神の運動。この作者は、精神の運動神経がいいんだろうか。私なんか怠け者なので、到底及ばない。すぐに分かることだが、漢字でなくてひらがなを駆使するところに、まずポイントがあるのだ。
元気の出ない時に読むといいかもしれない。「狂風記」「普賢」などもお勧め。この人の該博に触れたいなら、ちくまで出している「石川淳評論選」がある。
それにしても、「櫛風沐雨」という言葉がカッコイイ。
「紫苑物語」
★★★★★
この物語を紡いでいる文章は、読み手に無味乾燥な活字ではなく絵巻を目にしているかのようにさえ錯覚させる。短編ながら、様々な人間の生のあり方が描かれ、人間の営為についてを考えさせてくれる。
作者・石川淳のいう「運動」が主人公によって表現されきっている点でも高く評価できる逸品。
石川淳のhumanism
★★★★☆
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