強引ではないがねばり強く対象となる人々にからみつき、旅を通じて出会った人々の人生を浮き彫りにする名人である。自然のなかで生きる人々を取材するが、本人はアウトドア派というわけではなく、あくまで関心は人それぞれの人生に向けられるあたり、根っからの人文系のひとといえよう。 ところでなぜ「イカ」なのか。
日本海側には九州から北海道まで、いたるところにイカの名産地がある。そのひとつである鳥取県境港市出身の筆者は、それらを順番に取材しつつ、イカに関わる人々の真実に迫ろうというわけである。
太平洋側の都市部に暮らしている人々からみると、視界にも入っていないような「裏日本」である日本海側から日本列島を眺めると、そこにはまた違った日本が浮かび上がる。太平洋側のような、資本の論理でいう豊かさはないが、見かけ上の停滞のなかに著者のいう「より人間的な将来性」という意味でのほんとうの豊かさが確かに存在するということを確認できた旅であったのだ。 捕れたてのイカを食べられるというだけで人生幸せ。そう思えない人とは友達になりたくないものですね。