市中の情景や人情の描写が素晴らしく、のめり込む魅力あり!
★★★★★
理不尽に苦しめられる江戸市中の庶民を救う、北町奉行所隠密廻り方「夜叉萬」こと主人公・萬七蔵の痛快な時代小説で、この文庫のために書き下ろされた作品とのこと。夜叉萬同心シリーズの2作目にあたります。
前作「夜叉萬同心 冬蜉蝣」での、夜叉萬や兄の敵討ちを果たした鏡音三郎らの活躍から1年後の設定となっているのですが、夜叉萬の有無を言わさぬ見事な剣さばきと、藩に復帰した音三郎と江戸に残された町人の娘・綾の一途な愛情の行方が、力強く…そして、切なく描かれています。
前作同様、町の情景や人々の身なり、ちょっとした小物までもが手に取るように浮かんでくる描写の素晴らしさが大きな魅力だと感じました。
また、斬り合いに至るまでの人情の機微が手に取るように描かれ、場面展開がポンポンと小気味良いことや「クスッ」と笑わせるユーモアが織り交ぜられていることも、辻堂作品に「スラスラと読めてしまう」特徴を与えているように思います。
時間に余裕のある方は、是非、一作目から読んでみてください、登場人物の背景がきちんと描かれていますし、音三郎と綾の「許されない恋」の切ない気持ちや深い愛情が伝わってくるので、作品に「のめり込んでしまう」のではないかと思いますよ。