選曲、アレンジ、演奏者、そして価格の全てについて申し分ないベスト盤
★★★★★
唱歌、叙情歌のCDは数多く販売されていますが、この一枚はそんな中でもベスト・オブ・ベストと呼ぶに相応しい秀逸なアルバムです。日本を代表する唱歌の名曲の多くが収められ、そのアレンジ、演奏者も、ややポップ調にアレンジされたダ・カーポの美しいハーモニー、わが国を代表する女性声楽家鮫島由美子の声量溢れる見事な独唱、男女混合合唱団、児童合唱団等実にバラエティーに富んでおり、鑑賞者を大いに満足させてくれます。
そんな名曲名演奏揃いの中、特筆に価する素晴らしい一曲は、森の木児童合唱団と中谷友香のソロパートが織りなす「ちいさい秋みつけた」です。ガラス細工のように繊細で美しい森の木児童合唱団の合唱パートとヴァイオリンの名器ストラディバリウスの美音を彷彿とさせる中谷友香の凛とした透明感溢れる美声のソロパートの共演は見事という他なく、まるでその音楽と共に秋風や秋の薫りまでをも感じさせてくれる名演で、私はかつてこれ程素晴らしい「ちいさい秋みつけた」を聴いたことがありません。
ただ一つだけ難を言えば、このアルバムには全曲の歌詞は付いているものの、ライナーノーツの類がただの一文字もなく、その点は若干不親切に感じます。歴史的な録音も少なくない選曲集なので、せめて録音年月日や演奏者の一言紹介ぐらいあって欲しいところです。
また、「赤蜻蛉」は何故か『十五でねえやは嫁に行き、お里のたよりもたえはてた』のこの美しくも切ない3番の歌詞が省略された短縮バージョンの演奏で、個人的にはこの省略に一抹の不快感を禁じ得ません。
とは言え、たとえこれらマイナス点が存在したとしても、それらを被い尽くして余りある秀逸な叙情歌のベストアルバムであることに変わりなく、大いにお薦めする一枚です。