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臨床哲学

価格: ¥2,520
カテゴリ: 単行本
ブランド: 哲学書房
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考えること・読むことの楽しみをどこまでも楽しめる本 ★★★★☆
養老先生の思考のコンパクトなダイジェスト版。

ここでは、エッセイの語り口で書かれた「科学」が
「なんでもない」という顔をして並んでおり、
興味に任せて気軽に読み進めていくだけで、
「養老世界」を一望することができます。

それにしても。
デカルトとダーウィンとポパーと平家物語が同居するなんて、
先生の本くらいでしょう。
これを「多岐に亘る」という言葉で
簡単に済ませてよいものかどうか。
思わず考えてしまう対象範囲の広さ深さ多様さです。

読めば全然受けなんか狙っていないのに「面白い」。
自分の知らないところで、
脳がひとりでに喜んでいるのかも知れません。
養老哲学を網羅する一冊 ★★★★★
「臨床哲学」というタイトルは「臨床医学が実地からのフィードバックを受ける」ことになぞらえた「実際的な事柄を踏まえた哲学」を指す養老氏の造語です。

 約350頁とボリュームがあり、様々な事柄に対する養老氏の考え方が網羅されています。『唯脳論』『形を読む』『人間科学』などと重複する内容が目立ちますが、氏の哲学の全体像を掴むには良いでしょう。
 
いくつか印象に残った部分を挙げてみます(原文を簡素化しています)

・論理的整合性を求めると話が丸まるが、自然科学の面白さは話が丸まらないところにある。自然科学では現実が論理に穴を開けてしまうからだ(p.18)
・生物は機能と構造を使い分けているわけではなくヒトが勝手に分けただけで、これを言葉の分節性という。解剖学の中には言葉の分節性によりバラバラにされた実体がゴロゴロしている(p.26)
・知覚系の本質は削ることであり、その機能の基本は濾過である(p.61)
・現代科学の論文は電報に近づき、同時に現実世界の均質化が進行している。語が多義的でないためには、語に対応する現実を規格化するしかないからだ。ゆえに、科学の実験室は類似し、同じ機種が必要になる(p.66)
・前提に触れると怒りだすのはイデオロギーの特徴である。その意味では科学もイデオロギー性を持つ(p.104)
・生物は遺伝子系と神経系の二つの情報系をもつ。神経系が遺伝子系にバイアスをかける現象として性選択や擬態があるが、そこでは二つの情報系は直接絡む(p.145)
・日本の教育の問題点は哲学と宗教を欠くことでだ(p.165)
・身体と環境の統御を目的とする器官である脳は、予測や統御のできない存在、つまり「自然」と相反する(p.177)
・現実とは脳が与える現実感により定められるものだけだ(p.220)
・各個人の現実は社会的に等価であるため、社会は多数決により現実を定める(p.225)
・機能は時間を含むが構造は時間を含まないため、機能から構造は導けない(p.236)
・分子生物学は物理化学的世な記号世界に生物の構造と機能を翻訳する(p.294)

「人間科学」以前の総括本 ★★★★★
氏が東大を退官した少し後に纏められた、過去十年間の総括版。唯脳論あり科学の見方・哲学ありである。勿論解剖学に関する一般向けの記述もありである。文学に対する見方も、言わずもがな、である。

これを読むと、氏の思考の過程も追体験することができる。文庫本に独立して出版されている文学論なども、簡潔にまとまっており、この一冊あればほとんど網羅されているといっても過言ではないのではなかろうか。