孤独で無口な仕立て屋のイールは、向かいの部屋に住む魅力的なアリスの姿を1人のぞき見ながら、彼女への想いを募らせてゆく。アリスは彼を利用すべく徐々に彼を誘惑。彼女の裏切りを感じながらも、彼が貫いた愛の結末は…。
ジョルジュ・シムノンの同名の原作がもつサスペンス性に加え、「究極の愛こそ悲劇的」というテーマにも挑み、心の奥底にずっしり響く作品に仕上がっている。監督は『髪結いの亭主』『イヴォンヌの香り』など、フランス映画界の巨匠パトリス・ルコント。哀愁あふれるブラームスの四重奏曲、『他人のそら似』のミシェル・ブランの名演技、繊細であでやかな映像美など、見どころ満載の秀作だ。(うさこ チャン)
エピローグが切ない、至玉の恋
★★★★★
「髪結いの亭主」以来、二度とルコントは観ない、と決めつけていた自分、
しかしその後「歓楽通り」を観て、やっと彼の魅力が見えてきた。
仕立て屋イールが身に着けているノーベントのトラディショナル・スーツ、
彼の人格を物語るに十分である。
人間ぎらいなのではなく、彼とシンクロする相手がいない、それが彼を孤高に
追い込んでいる。
寡黙、無表情、その裏に秘められたイールの「片思いの恋」が成就しないことは
誰の目にも明らかだ。
しかし女の裏切りに遭いながらも、破滅の淵に立ってなお愛に殉じる男。
エピローグに綴られた男の愛と夢、女に宛てたもう一通の手紙とが切なく重なり合う。
「窃視」という一見卑劣な行為の裏にあったもの、生活感を排したドラマが、
ブラームスの楽曲とともに、稲妻に照らし出された男の恋を浮き彫りにする。
せつない片思い
★★★★★
一番初めに見たルコントの映画でした。
これ以来彼の映画が、好きになりました。
隣のアパートに住む女性に恋する、奥手で人嫌いな主人公の男。
彼のとてもせつない片思いの話です。
彼女の生活の一部始終をひたすら見つめる男。
見ることが恋することの基本なんだな、思い出しました。
映像の美しさはもとより、少しふれあう手と手や、
すれ違う視線、など五感に訴える映画でもあり
片思いのせつなさを思い出させる映画です。
静かな映画
★★★★★
自分に恋した仕立て屋を利用して、罪をかぶせようとする女。
それに気づかず、女を救おうと、別の場所で一緒に自分と暮らすよう計画をたてる仕立て屋。
すべて上手くいき、幸せな2人の生活が今からはじまることを夢にみていた仕立て屋。
女の裏切りがわかった後、死ぬ直前の仕立て屋はどんな気持ちだったのか。
今まで生きていて、なんの喜びもなかった仕立て屋の夢がやっとかなおうとするところに、この裏切り。
仕立て屋の純粋な恋心を思うと、やりきれない思いが残る。
でも、救いなのは、やはり最後にどんでん返しがあるということ。
仕立て屋のルックスがよくない(ごめんなさい。)のが、人間のコンプレックスという面を通してこの話をおもしろくしている。
流れる空気が最後まで冷えた静かな映画でした。
奇妙な関係
★★★★★
すごく雰囲気のある映画でした。
耳に後まで纏わりつくような音楽、会話がない窓越しのアイコンタクト、
仕立て屋の不器用で滑稽な愛の形。
普通だったらただののぞきの変態として通報すれば終わりのようなことなのですが、
巧い具合にある殺人事件と絡み合うサスペンスな展開になり、
見ごたえは充分ありました。
仕立て屋イエールが最後にアリスと目を合わせるシーンが凄い!
★★★★★
原作はジョルジュ・シムノンの小説ですが、映画は完全にパトリス・ルコントの世界になっています。アリスの鮮やかな服装と紙袋からこぼれ出る赤い果実。仕立て屋イエールのくすんだ背広姿。効果音を極端に排した中に流れるブラームス。この映画ではパトリス・ルコント監督の色彩感覚や音の世界にも注目してください。