清冽でクールな、アンスネスのシューマン
★★★★☆
アンスネスによるシューマンのピアノソナタ第1番と幻想曲を収録。録音は1995年、96年に行われている。
アンスネスの録音の多くが輸入廉価で入手できるようであるが、全般に良心的な演奏であり、いずれもお買い得といっていい内容だと思う。このシューマンもそんな一枚。演奏はいかにも若々しい爽やかなもので、一陣の風のように吹き抜ける印象だ。といって無味乾燥というわけでなく、情緒的な旋律の扱いも適度にこなしてくれる。
ピアノソナタ第1番の序奏も、大仰に風呂敷を広げるようなものではなく、かといって過度に急ぎ足で進めているわけでもない。スタイリッシュでクールである。ペライアのコントロール、ポリーニの彫像性、アシュケナージの骨太な歌のどれとも違うし、これはこれで一つの現代性であろう。
幻想曲も響きがクリアーであり、ファンタジーよりもっとリアルな音楽を聴いているという気がする。それこそ、自由な形式のピアノソナタの様な・・・。爽やかなテイストであるために聴きやすく、すらすらと流れていつのまにか終楽章に至るという感じ。これがシューマンの音楽の本質かどうか迂闊には言えないかもしれないが、一般的には異なるイメージを持つ方が多いかもしれない。しかし、浪漫性を強調した演奏も良ければ、このような演奏も悪くないと思うし、何よりこのように清冽な印象だけ残すシューマンは、それはそれで気持ちよい。余裕があれば一枚コレクションに加えて悪くないディスクだと思う。