本書には、著名な兵法書・伝書などから編者が重要と考える部分が抜粋・収録されている。現代人が普段忘れ去っている重要なことを教えてくれる一冊である。

収録されているのは「兵法家伝書」（柳生宗矩）、「不動智神妙録」（沢庵）、「一刀斎先生剣法書」（古藤田弥兵衛）、「五輪書」（宮本武蔵）、「常静子剣談」（松浦静山）、「天狗芸術論」（いっ斎樗山子）の6点。抜粋とは言え、これらの著作に一通り触れることができるので「お得」である。

武道の技術論ではなく、物の見方や心の持ち方など実践的な処世訓が中心となっているので、広く一般の人が親しめる内容だと思う。

古い時代に著されたものであるが、「こころ」の働きについて実に深く洞察されている。事（わざ）と道理をしっかりとわきまえて、どのような場面においても生き残りを図るという、その「したたかさ」はすぐれて「実践的」・「戦略的」である。

概ね原文（ふり仮名付）・現代語訳・解説という構成になっているので、古い文体に馴染まない人は現代語訳だけを読むこともできる。解説は性質上説教臭くなる傾向もあるが、理解を深めるうえで参考になる。

「五輪書」・「不動智神妙録」は本書と同じ「現代人の古典シリーズ」（徳間書店）でも読むことができるが、これらの著作をすでに読んだ人も未だ読んでいない人も、本書を一読（再読）して損はないと思う。