「科学研究の成果」と「社会における現実的価値」の狭間を埋める手段
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科学研究の成果と、社会における現実的価値(利益を生む商品など)は直結しない。
その狭間を埋め、さらなる学問的進化と産業の発展を目指す為の新たな哲学を提示したのがこの本だ。
研究と社会には「死の谷」というギャップが存在しそれを克服するための現実的手段を考え、行動するには
その時々の研究成果をなるべく、その技術レベルで可能な商品に転換し、高い目的(ターゲット)へ向かうための現実的結果を表現し悪夢の時代を克服し、研究レベルを上げていく方法が良いようだ。
この本は「研究」と「社会における価値」との構造関係を考える上でも重要な観点を示し、未来の研究者や、これから未来においてビジネスを成功させたい人々の必読書になる可能性が高い。なるべく多くの社会人が読むべきだ。
これからの社会に活きる科学の姿
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「産業科学技術」とは単に産業界での科学ではない。「これからの社会での、あるべき科学」を意味する。社会からの要請に応えて有用な知識を生み出すための科学を提案する。これは今や必須となった「持続可能な開発」を実現する方法なのだ。このために、従来のように、学会と研究者で閉じた科学研究を第一種基礎研究と命名し、そこから脱することを説く。地球・世界の状況が大きく変わったからである。
私自身が十年以上、従来の枠組みで研究してきた中で澱のように沈殿した実感が、言葉として、論理として、述べられていると感じた。自分の研究成果が論文として出版されたとき、嬉しい反面、莫大な数の同種論文に埋もれる無力感から、「何のために研究しているのか?」何度も自問した。その答えの一端がここにあると感じた。この本で説かれる方法論の実現を望むとともに、同じような気持ちをもつ人に勧めたい。
新たな方法論、概念を多く提唱する。社会と科学コミュニティーが密接に関係するために、「製品」という概念を出す。モノを生み出す過程に存在する、死の谷、「悪夢の時代」の問題点を議論し、従来の科学方法論とは異なった「第2種基礎研究」を確立すべきことを訴える。全体を通して内容が濃い。著者が所属する産業技術総合研究所での数十回に及ぶ討論会をまとめたものだ。ぎっしりと詰まりすぎていて、楽に読める本ではない。しかし、今の科学に疑問を持つ人、科学に関係する人の多くに読んで、考えてもらいたいと希望する。一人でも多くの人が共感しないと、科学の世界も、社会も変わらないと危惧する。