名曲「春に」が収録されている混声合唱曲集
★★★★☆
『地平線のかなたへ』は、幅広い世代の合唱人に愛されている木下牧子の「春に」が収録されている曲集です。元々中高生を対象にした混声3部を1992年に混声4部に編曲して出版したものです。
「春に」は単独でよく演奏される曲で、親しみやすさと伸びやかさは特筆すべきでしょう。谷川俊太郎の詩からは若い世代への温かい気持ちがストレートに伝わってきます。誰しもが思い描く「青春」への憧れと、新しいステージへの旅立ちという惜別の感情とがない交ぜになって押し寄せてくるようです。青春像を考えていく純化という過程で生まれた結晶の煌きのようなものでしょう。
「サッカーによせて」は、アカペラ版もありますが、ピアノ伴奏があることによってスピード感が増しています。思春期の悩みをサッカーに置き換え、見事に蹴り返した1曲に仕上がっています。
「二十億光年の孤独」に登場する火星人や風変わりなメロディなど、音程を取ることが難しい作品ですが、テンポのキレもあり、上手く演奏できれば効果のあがる曲です。
「春に」と対比するような「卒業式」には、これから歩み出す人生の道程を記すような明るさが感じられます。♪卒業証書の望遠鏡でのぞくきみの未来♪というラストのメッセージをユニゾンで歌う瞬間はゾクッときます。
「ネロ−愛された小さな犬に」は悲しい歌詞ですが、新しい地平線のかなたへ歩み出す主人公には決別すべき瞬間がきていることを自覚させる強さが曲からにじみ出ています。
5曲の中には、部分的には難しい箇所もありますが、比較的平易な譜面を用いながらこのように感動を呼び起こせる素晴らしい音楽になるということを証明する曲集だと評価しています。