単なるオカルトものでは終わらせない、怪談話の裏の事情をも浮き彫りにする、人間味あふれる作品集です。もちろんユーモアもたっぷりで楽しい読み物です。続編が望まれます。
「心中無縁仏」
霊感バスガイド藍の初仕事です。工場閉鎖で揺れ、人がいなくなった町の寺には、心中した恋人たちの墓がありました。その墓に異変が起こります。心中なのに無縁仏? なかなか深いタイトルです。
また、『無縁仏をないがしろにする者は、自らも忘れ去られる』死んだからといって人を適当に扱ってはいけないのだなと思いました。
「神隠し三人娘」
催眠術にかかった男が告げた三つの女の名前。それはある事件と深くかかわりのある名前でした。一方そのころ藍は「神隠しにあう場所めぐりツアー」の真っ最中。そこで行方不明になった女の子を見た藍は、神隠しにあった三人の女の子を探してほしいと頼まれます。手がかりを求めて訪れたTV局で、またも奇怪な現象に遭遇します。
『働けるってことが――いえ、生きてるっていうだけでも、充分幸せかもしれない』藍の言葉が心に染み入ります。
「しのび泣く木」
今度のすずめバスは、「すすり泣き、血を流す木の怪奇ツアー」です。人間だけじゃなく、木にも何か悲しいことがあるのでしょうか。霊感バスガイドが、木の無念を晴らします。すずめバスならではのサービスです。
「怪獣たちの眠る場所」
エビの化物が出るという手紙から「巨大エビの幽霊ツアー」が組まれました。エビの化物の正体は何なのか、というか、なぜエビなのか。なぜ現れたのか。怪奇ものというより現代の社会問題を色濃く映した作品です。
「未練橋のたもとで」
映画・未練橋慕情の試写会に招かれた藍は、なぜか映画に絡んだツアーへの同行を頼まれます。どうにもいやな予感のする藍ですが、ツアーの下見に出かけます。何かがおかしい。でもそれが何だかわからない。そんなもどかしさを感じながら物語が進みます。最後に急展開が待ち受けています。