シェイクスピアではなく
★★★★★
タイトルや装丁から受けるイメージは、ページを開けばすぐに覆される。シェイクスピアよりもボルヘスの講演の形によせて、世界文芸史上でも稀な我が国の王朝時代文芸の魅力の秘密に自分なりの光を当ててみたい、という思いで書き始めたという。しかし、そこに現れるのは光ではなく王朝時代を貫く近親姦と近親殺という罪の闇である。筆者は、「闇という出自を忘れたら、私たちの詩歌は詩歌ではなくなってしまうにちがいない。」といい、禍々しい闇の世界に深く踏み入って行く。著者に随って闇の中へ踏み込んでしまった読者は、彼の灯す光だけを頼りにその後を追うことになる。一二夜プラス一夜語りは、順を追って通して読むべきである。闇は極めて深く、王朝文化に対する認識を大きく変えることとなろう。『源氏物語』も『伊勢物語』も、そして島崎藤村の『若菜集』も、もう一度読み直さなければならない…そんな気になってしまった。