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★★★☆☆
田中優子氏の文を読むのは、浮世絵春画を読む。以来です。この本を読むだけでも当時の人々の春画への、捉え方、位置はわかりやすく、実用的な品だと認めやすいのですが、実際は絵画とギリギリのモノであったという事実を直に見て欲しいです。
原画が是非とも見たいです。
図像を読み解く知的探求のしかた・楽しみ方が味わえる本
★★★★☆
一枚あるいは一連の絵画、彫刻、建物、着物などの視覚対象物を凝視しそこに表現されたものを読み解き・読み尽くすということのおもしろさ・楽しさが味わえる。
江戸の視覚世界を著者は「るつぼ」と読み解き、その甚だしい混合・ないまぜと矛盾・対立の中に豊饒性を見出している。江戸ではそういう状態を「めでたい」といい、「尽くしもの」様式が生み出されたと説く。「百蝶図」「百福図」「江戸名所図屏風」「猫飼好五十三疋」「石橋図」など、まさに尽くしの一極と感じる。
図像の読み解きは、各見開き2ページの中に凝縮し、あふれ、万華鏡のようだ。だが、そこには膨大な図像渉猟・凝視と該博な知識・情報が潜んでいると思った。文字面だけのこの解説ページのレイアウトにも趣向があって楽しい。
江戸の視覚世界を基軸としながら、著者の目は世界に及ぶ。中国(北宋の都、蘇州)、ポルトガル、オランダ、イタリア、韓国の中に、「近世」の「るつぼ」状態を見出している。すべてが混沌一体となっている。「江戸百夢」という標題なのになぜ、世界がという疑問は「EARLY MODERNの図像学」として半ばまでが雑誌連載だったということで理解できた。
知的好奇心を満たす素晴らしい書籍
★★★★★
知の豊穣な大海へのいざないとも言うべき様々な「近世図像」を取り上げて、田中優子氏の博識ある文がまた彩りを添え、知らない世界を知る喜びへと連れていってくれました。最近読んだ本の中では1番に上げられる書です。
著者田中優子氏は、法政大学教授でTBSのサンデーモーニングのコメンテーターとしても活躍されています。そのような活躍や業績で本書を眺めたわけでなく、読み進める内に面白くてやめられなくなるような記述の連続でした。
読後に調べてみたら、本書は芸術選奨文部科学大臣賞やサントリー学芸賞受賞作品でした。権威によりかかる訳でもありませんが、選ばれるだけの内容を内在している本なのは間違いありません。
掲載文の半分は「朝日ジャーナル」に連載されていたもので、同誌の休刊に伴い、残り20本を数年後に書き足し1冊の本にしたそうで、編集者の粘り強さと感性の鋭さにもまた驚きます。この40本は、それぞれ見開きで解説が書かれ、次の見開きで作品が掲載されるという形式になっています。
筆者の専門の「江戸」がキーワードになっていますが、取り上げられている範囲は遥かに広いものでした。「近世オランダあの顔この顔」ではフェルメールの絵画に登場する少女の顔を取り上げ、「蠱惑する襞」ではベルニーニの傑作が紹介されています。それらを評する切り口も斬新で、この碩学は洋の東西を問わない博識振りを披露してくれました。
取り上げられた作品もまた魅力的です。伊藤若冲「雪中錦鶏図」、曽我蕭白「群仙図」「石橋図」、円山応挙「百蝶図」、鈴木其一「夏秋渓流花木図屏風」、そして大好きな広重の「名所江戸百景」は2本分書かれていました。
学者でありながら、ジャーナリストの感覚や作家としての巧みさを兼ね備えた田中優子氏の知性にただただ畏怖するような書籍でした。絶賛します。