熱心なファンをあてにしすぎ
★★★☆☆
「マッドメン」は著者の数多の傑作群の中でも最も注目すべき作品の一つです。「もののけ姫」にも多大なインスパイアを与えたであろうと推察されます。決定版の出版自体は喜ばしいことです。しかし、「海神記」にしてもそうだけど、この値の設定は熱心なファンの財布をあてにし過ぎです。レア作品の復刻とかならしょうがないけど、これは今でも普通に買える作品なのですから。「最終」版と名乗るのもどうなんだろう。
現在ジャンプスーパーコミックス版全二巻(A5版・第二巻に鯖イバルとダオナンを併録)や文庫版全二巻(第二巻に鯖イバル、ダオナン、ラストマジック、王の死を併録)などが出ています。以前は中央公論社から全一巻の作品集(A5版・ロトパゴイの難船、砂の巨人、桃源記を併録)なども出ていました。
異界への憧れ
★★★★★
この漫画は、リアリティに富み現実感(21世紀の日本)を失わせます。
マッドメンとは、原初から続く聖なる兄妹を守護する精霊たち。
遙かな時を超えて現代に蘇った二人は、次第に自分の行く道を見つける。彼らを導く仮面や、科学者たちの、人間の
連なりを飛び越えて兄妹は自由な自分を勝ち取ってゆく。
二人の生きるのは、最も文明とは縁の遠いニューギニアの奥地。多くの迷信や混乱した見方の暴走が人々を迷わせる。
その中で、聖なる兄妹は傷つきながらも道を探す。 命を失いかける兄を救うために、妹は精霊に導かれて旅に出る。
勿論、これは巧みに積み上げられた虚構からなる「新しい神話」です。ここにあるような主題の神話は、どこの世界にもあります。
でも、実際に画と台詞をもって築き上げられたこの話以上に具体的で機知に富んだ話は少ない。
手にとってみると、1ページ目から妙に懐かしい風が吹いてくるのは、この本を読む私たちが求めているからでしょう。
神話は、J・キャンベルが言うように普遍的で共通項の多い「文明の証左」であるなら、この異界で繰り広げられる「神話」は、どこか懐かしい香りがするようです。
これで落ち着いた
★★★★★
久しぶりにこのシリーズを通読し、十分に堪能した。今回の編集は、最終版と称するだけあって、収まりの良い落ち着いた感じになったと思う。いつもながら諸星の、現実と虚構、伝説と創作のミックス具合に感動する。つくづく、この人は自由な精神の持ち主であると感じる。作中に時折ぽっかりと暗黒の口を開ける「異界」あの壮大な世界はまるごと作者の中にあり、そこから、流れつく悪霊の仮面のように、作品も流れつくのでは…と思わせられてしまう。まあ、作品はこつこつと造られるのだろうが、彼の内なる世界は唯一無二のものであり、まさしく「異界」の名にふさわしいと思う。