さりげなさの中に
★★★★★
短編8編で構成されたまるごと恐怖本。「彼女」にまつわる恐怖はそれぞれにちがった味があり面白い。ものすごく気味の悪い、活字の間から映像が飛び出してきそうな小編としてすごいのが「卵を愛した女」オムレツ屋をオープンしようと意気揚揚としていたシェフの彼女、共同経営者であるはずの友達に10年ぶりにある変化が起きた時、彼女は豹変する。卵に対するこだわりが異常に強い彼女がした復讐。読んでしばらくは余韻の怖さで次に進めないくらいでした。「結ぶ女」もビジュアル的にすごい、特に最後のシーンは想像を掻き立てれば立てるほど怖くなる。もちろん心理的に恐怖心を刺激する短編もある。「口が堅い女」はそういう意味でよい出来。解説にもあるように、新津きよみのホラーワールドはお化けが待ち構えているお化け屋敷でなく、お化けなんて絶対出そうもないモデルルームホラー。まさに言い得て妙である。だから怖い。想像だにしないところに潜む恐怖を見事に暴き、あますところなく抉り出すテクニックは新津ワールドの真骨頂であろう。しばらく目が離せない作家のひとり。次は何を読もうかな??