ピアソラファンの宝
★★★★★
本編はインタビュー形式によるピアソラの語り。ああこんな風に考えてたんだな、とかいろいろ思わされて良いです。ピアソラならではの表現や感性が随所に見られます。キチョ・ディアスを「背中にキンテートをまるごと乗せた象のよう」と喩えていたのは非常に上手いです。ものすごく納得しました。
後半は付録、となってますがこちらのほうが分量が多いです・・・
「終わりから二番目の別れ」では、かつてのバルダーロ六重奏団のもう一人のバンドネオン奏者、ホルヘ・フェルナンデスのところが泣けます。
「コンフント10(テンテート)」には、生前ピアソラと関わった10人の人々の言葉が。中には悪名高いあのプロデューサーの名も・・・。ロペス・ルイスの章は必読でしょう。彼によるピアソラ評には非常に納得しますし、参考にもなります。
ピアソラが見ていた世界
★★★★☆
日本でも90年代を通じてメジャーとなったピアソラ自身が語った生い立ち、
タンゴとの出会い、音楽性の獲得とその変遷、そして人間性について本書の
前半部はまとめられています。
本書の秀逸な点は、その資料性の高さであると思います。巻末のピアソラの
ディスコグラフィーとメンバー編成の詳細が年代とともに収録されています。
また、ピアソラと同じ時代を生きた音楽家、演奏家や周辺を彩った人物の
インタビューやピアソラの批評が載せてあり、ピアソラ自身の複雑な思考に
基づいて、多くの人間がピアソラとともに駆け抜けようとした姿を描いており
鮮やかな情景とともに私たちに訴えてきます。
本書における多数の登場人物は、私でも知りうる超有名人以外には知りえない人も
多いのですが、そのような人たちとの関係から改めてピアソラを見直すきっかけとして、
また、ピアソラを聴いて、興味が湧いた人にとっても理解しやすい書であると言えます。
激しい言葉
★★★★★
ピアソラのイメージ通りの、強烈な自負に満ちた言葉が繰り出されていて、痛快な本。
自分こそがタンゴを守り抜くのだと言うブエノスアイレスの伝統主義者と、ロックやジャズなどを強く意識して現代音楽シーンに自分を位置づけようとするニューヨークの野心あふれる現代音楽家と。ピアソラのその二つの顔が如何なく言葉となっている。
「私は今までずっとタンゴのために働いてきた。今度はタンゴにも、私のために働いてほしいものだ。」