トスカニーニの演奏は脳を活性化する?
★★★★☆
ベートーベンのシンフォニーは音楽ではなく、数学だと思っておりますが、とくにこの第3番「エロイカ」にはその特徴がよく現れており、シンプルな楽想が計算しつくされて構成されております。トスカニーニはこのシンフォニーを実に52回も演奏したそうですが、録音が現存する演奏の中では、この1953年のカーネギーホールでの最期のライブ演奏が最も完成されたものになっております。小学校6年のころこのレコードを聞いて以来、試験の日の朝には毎回第一楽章を聞き、颯爽とした気分で出かけたことを思い出しますが、トスカニーニの演奏を聞くと、何か頭の中が整理される気分でした。当時は験担ぎと思っておりましたが、地方の無名の公立高校を出て、塾にも行かず、旧帝大の医学部を卒業できたのは、まさしく、このトスカニーニのエロイカのおかげと思っております。このCDでは弦の艶やかさがよく再現されており、その分、颯爽とした演奏という今までのイメージといくぶん異なりますが、細部まで計算されつくされた繊細な演奏であったことが良く理解されました。科学的な証拠はありませんが、この演奏にはヒトの脳を活性化する何らかの作用があるように思います。