ストーリーは、イスラエル建国に端を発する中東戦争をベースにしており、これにかぐや姫の物語のエッセンスを織り交ぜながら物語は進行していく。
一年戦争から2000年、地上の人類はかつて宇宙を舞台に戦争が行われてこと、また、かつての同胞が文明を維持したまま、月に居住していることを忘却していた。
西暦2345年、月の人類ムーン・レティスは、約束の地である地上の領有権を主張し、帰還作戦を武力をもって強行した。一方、突然の来襲者に対抗を余儀なくされた地上の人類は、かつての人類の遺跡であるモビルースーツを駆り、戦端を開いた。
この、一見、ガンダムとは相容れない、スペースオペラチックな物語を、ニュータイプと絡めて福井氏は見事にガンダム的にまとめている。また、見方を変えれば、福井氏的な戦争論の物語と読むことができ、福井ファンも楽しむことができるよう配慮されている。
特筆すべきは、全体からあふれ出す、ガンダム並びに、富野由悠季氏へのリスペクト。福井氏と同世代のガンダムファンとしては、「これが見たかった」という感激に、ひたすら打ちひしがれる。イデオン(あるいは、Z、逆襲のシャア、閃光のハサウェイ、F91あたり)を最後に見ることが出来なかくなった、ファンが求める富野作品を、福井氏が見事に、より精錬された形で、富野氏以上に富野的に具現化している。
30代のガンダムファン必読の書といって、いいだろう。
あと一つ、この作品が富野氏のプロットを基に書かれていることに注目したい。
あるいは病んでいるともされる富野氏だが、もし、これだけのプロットを書く力が彼に残っているのであれば、ぜひ、もう一度、ガンダムを超える素晴らしい作品を世に送り出してもらいたいと、願ってやまない。